top of page

暮らしを再設計するリノベーションのこれから|第17回

9月21日
読了時間: 16分

フルリノベだけではないリノベーションのさまざまな形


住まいの再生と温もりの空間
住まいの再生と温もりの空間

「リノベーション」と聞くと、どのような工事を想像するでしょうか。

マンションをスケルトン状態まで解体する。

間取りをすべて変更する。

キッチンや浴室を新しくする。

床や壁もすべて張り替える。

いわゆる「フルリノベーション」のイメージが強いかもしれません。

確かに、それもリノベーションです。

しかし、これまでこのシリーズで考えてきた、

耐震性能を高める。

窓だけを断熱する。

水回りだけを再構成する。

子どもの独立後に二部屋を一部屋へ戻す。

家具によって空間の使い方を変える。

古民家を店舗へ変える。

こうした工事も、建物の価値や使い方を変えるという意味では、リノベーションの一つの形と考えられます。

結論からいえば、

リノベーションの大きさは、工事面積では決まりません。

建物全体を工事することより、

今ある建物に、次の役割や性能を与えること

の方が本質です。

▽そもそも「リノベーション」という工事区分は一つではない

建築の世界では、

リフォーム。

リノベーション。

コンバージョン。

改修。

修繕。

模様替。

さまざまな言葉が使われます。

一般には、

壊れたものを元へ戻すことを「リフォーム」。

既存建物へ新しい性能や価値を与えることを「リノベーション」。

と説明することが多いでしょう。

ただし、実際の法手続は広告上の商品名称で判断されません。

国土交通省は、建築基準法上の「修繕」を既存と同一の寸法・材料等で建築当初の状態へ回復するもの、「模様替」を異なる材料や仕様を用いて性能や品質を向上させる改修として説明しています。さらに主要構造部の一種以上について過半を改修する場合には「大規模の修繕・模様替」に該当する場合があります。

つまり、

フルリノベ。

部分リノベ。

リノベ済み物件。

といった呼び名より、

実際に建物のどこを、どこまで変更するのか

を見る必要があります。


▽1.スケルトン・フルリノベーション

最も分かりやすいリノベーションです。

既存の、

内装。

設備。

間仕切壁。

などを大きく撤去し、建物の構造躯体に近い状態から再構成します。

マンションでは、

コンクリート躯体。

共用配管。

パイプスペース。

サッシ。

など、変更できないものを残し、その内側をつくり直します。

戸建住宅では、

柱。

梁。

基礎。

屋根。

などを残しながら、間取りや設備を大きく変更する場合があります。

向いているケース

中古住宅を購入して自分の生活へ合わせたい。

設備と配管が全体的に古い。

間取りを大きく変えたい。

断熱や耐震まで同時に改善したい。

長所

建物全体を一度に確認できる。

設備と間取りをまとめて再構成しやすい。

壁や床を開ける機会に断熱や配管を更新できる。

注意点

当然ですが、工事範囲が広くなります。

費用。

工期。

仮住まい。

廃棄物。

も増えます。

全面的に壊すことが目的になってしまえば、

残せた床。

使えた建具。

まだ交換時期ではない設備。

まで撤去することになります。

全部新しくすることと、建物を最適化することは同じではありません。


▽2.部分リノベーション

家全体ではなく、

LDKだけ。

水回りだけ。

寝室だけ。

玄関と収納だけ。

といった範囲を絞った改修です。

例えば、

細かく分かれたキッチンと居間を一つのLDKへする。

浴室と洗面所を再構成する。

二つの子ども部屋を一部屋へ戻す。

といった工事です。

部分工事でも、

生活の不便が大きく改善されれば、その効果は小さくありません。

むしろ、

生活上の問題がある場所だけ直す

という考え方は合理的です。

▽全面改修より部分改修が難しいこともある

部分リノベーションは、

工事面積が小さいから簡単

とも限りません。

既存床と新しい床をどうつなぐか。

古い壁と新しい壁の仕上がりをどう合わせるか。

既存配管をどこまで使うか。

工事しない部屋をどう養生するか。

といった問題があります。

全面解体なら一度リセットできますが、

部分改修では、

既存部分と新しい部分をつなぐ設計

が必要です。

これは意外に技術を要します。


▽3.性能向上型リノベーション

第7回で取り上げたように、

見た目をほとんど変えなくても住宅を大きく改善する方法があります。

耐震補強。

断熱改修。

窓改修。

省エネ設備。

防音。

防災。

です。

例えば既存住宅へ内窓を設置する。

床下や天井へ断熱材を追加する。

耐力壁を増設する。

給湯設備を高効率化する。

外観や間取りをほぼ変えなくても、住宅性能は変わります。

2026年には国土交通省・経済産業省・環境省による「住宅省エネ2026キャンペーン」が実施され、既存住宅について窓断熱、高効率給湯器などの改修が支援対象となっています。

リノベーションというと完成写真を撮りたくなりますが、

断熱材も耐震金物も写真映えには協力してくれません。

それでも、暮らし始めてから長く効いてくるのはこちらの工事です。


▽4.ライフステージ対応型リノベーション

建物が古くなったから工事する。

だけではありません。

人が変わったから住宅を変える。

というリノベーションがあります。

結婚。

出産。

子どもの成長。

子どもの独立。

在宅勤務。

親との同居。

介護。

退職。

こうした生活の変化です。

例えば、

二つの子ども部屋を夫婦の寝室と仕事室へ変える。

一階だけで生活できるよう水回りと寝室を集める。

在宅勤務スペースを設ける。

親との同居に合わせて水回りを増やす。

これは、

建物を直すというより、

人生の変化へ建物を合わせ直す工事

です。


▽5.バリアフリー・身体適応型リノベーション

身体の変化をきっかけとするリノベーションもあります。

段差をなくす。

手すりを設ける。

扉を引戸へ変える。

トイレを広げる。

洗面カウンターの高さを変える。

車椅子で使えるキッチンをつくる。

第12回で考えたように、ここでは住宅を一律のバリアフリー仕様へ変えるのではなく、

実際に暮らす人の身体と動作へ合わせる

ことが重要です。

住宅全体を一度に改修しなくても、

玄関。

トイレ。

浴室。

寝室。

という日常生活に重要な場所から段階的に整えることもできます。


▽6.段階型リノベーション

予算や生活上の理由から、

すべてを一度に工事しない

方法もあります。

例えば、

第1期

雨漏り、防水、耐震、配管。

第2期

断熱、窓、設備。

第3期

間取り、内装、家具。

という進め方です。

これは単なる工事の先送りとは違います。

最初から、

最終形を考えながら何回かに分けて施工する

という方法です。


▽段階改修では「次の工事」を最初に考える

例えば今回キッチンだけ工事する。

しかし5年後にLDK全体を改修する予定がある。

それなら今回、

将来撤去する壁へ高価な仕上げをしない。

新しい配管を次回利用できる位置へ通す。

分電盤に将来用の回路を確保する。

といった準備ができます。

工事を分けても、

設計まで分断する必要はありません。

設計は全体、工事は段階的。

という考え方です。


▽7.家具型リノベーション

第14回で取り上げたオーダー家具も、場合によっては空間を変える大きな手段です。

壁をつくらず、

壁面収納で部屋を分ける。

収納とワークスペースを一体化する。

窓辺へベンチをつくる。

キッチンとダイニングを家具でつなぐ。

大掛かりな構造変更を行わなくても、

家具によって生活の仕方を変えることができます。

賃貸住宅や、将来間取りを戻す可能性がある住宅でも有効です。

これは建築とインテリアの境界にあるリノベーションです。


▽8.素材再生型リノベーション

前回の第15回で取り上げた、

古材。

建具。

家具。

を残しながら再構成する方法です。

新品へ交換するのではなく、

研磨して使う。

移設する。

別用途へ加工する。

既存の時間を残しながら、次の空間へつなげます。

工事面積ではなく、

素材の使い方を変えることによって建物の価値を更新する

リノベーションです。


▽9.コンバージョン

ここから少し規模が変わります。

住宅だった建物を住宅として改修するのではなく、

建物の用途そのものを変える

方法です。

例えば、

住宅→店舗

倉庫→事務所

古民家→宿泊施設

事務所→住宅

学校→地域交流施設

などです。

これを一般にコンバージョンと呼びます。

▽使い方がなくなっても、建物の寿命とは限らない

例えば昔の倉庫。

倉庫としてはもう必要ない。

しかし、

建物そのものは使える。

という場合があります。

そこで、

カフェ。

オフィス。

住宅。

店舗。

などへ用途を変更する。

建物の寿命と、

最初に与えられた用途の寿命を切り離す

という考え方です。

これは第16回で考えた、西洋建築史における建物再利用にもつながります。

▽用途変更には法規確認が必要

ただしコンバージョンは、

内装を変えれば別用途として使える

ほど単純ではありません。

用途が変われば、

避難。

防火。

採光。

換気。

用途地域。

消防設備。

場合によっては保健所や旅館業など、

求められる条件が変わります。

また、市街化調整区域にある空き家や古民家について、国土交通省は観光振興のための宿泊・飲食施設や、集落維持のための賃貸住宅・グループホームなどへの用途変更について、一定の条件下で許可運用を弾力化する仕組みを示しています。

建物を残すことと、

使い方を自由に変えられること

は同じではありません。


▽10.空き家再生型リノベーション

人口減少社会では、

新しい住宅をつくること

と同時に、

誰も使わなくなった住宅をどう再び使うか

が重要になります。

国土交通省も空き家対策について、

除却する「しまう」

だけでなく、

住宅として売却する。

賃貸する。

用途を変えて店舗等として活用する。

という「活かす」選択肢を示しています。

例えば、

空き家→移住者住宅

古民家→店舗

空き店舗→住宅

住宅→地域交流拠点

という使い方があります。

ここでは一つの住宅だけでなく、

地域そのものを再生するリノベーション

へ話が広がります。


▽11.賃貸住宅のリノベーション

リノベーションは持家だけではありません。

賃貸住宅でも、

古い間取り。

設備。

断熱性能。

収納。

を改善することで、新しい入居者ニーズへ対応できます。

ここでは、

所有者が暮らしやすい家をつくる

のではなく、

これから誰が借りるのか

を考えます。

単身者。

子育て世帯。

高齢者。

在宅勤務者。

ペットと暮らす人。

地域によって需要は違います。

万人向けを目指して特徴のない住宅にするより、

どのような人へ住んでもらいたいのかを明確にする方法もあります。


▽12.マンション再生型リノベーション

マンションでは専有住戸のリノベーションだけでなく、

建物全体をどう更新するか

という問題があります。

外壁。

屋上防水。

給排水管。

エレベーター。

防災設備。

共用部分。

これらは個人だけでは改修できません。

2026年の住生活基本計画では、マンションの再生等の件数について、

2024年度 472件

から、

2030年度 1,000件

へ増やすことが成果指標として掲げられています。

つまりこれからは、

一室のリノベーション

だけでなく、

一棟を長く使うための再生

も大きな分野になります。

第16回で触れた高経年タワーマンションの問題も、この延長線上にあります。


▽13.「壊さない」というリノベーション

ここまで見ると、

リノベーションとは工事を増やすこと

ではないと分かります。

実際には、

工事をしない。

という判断もあります。

床は使えるから残す。

キッチンはまだ使える。

建具も調整すれば使える。

壁だけ変える。

こうした選択です。

建物を調査した結果、

まだ工事しなくてよい

と分かることもあります。

これは何もしていないのではありません。

何を変えないかを判断した結果です。


▽リノベーションは「大きいほどよい」わけではない

リノベーション業界では、

フルリノベ。

スケルトン。

全面改修。

という言葉が目立ちます。

工事金額も大きく、完成写真も大きく変わるため、分かりやすいからでしょう。

しかし、住宅の目的は写真を撮ることではありません。

生活することです。

玄関収納を少し変えただけで生活が劇的に改善する人もいます。

一枚の壁を撤去するだけで家族の動線が変わる場合もあります。

窓だけ改修して、

冬の暮らしが変わる住宅もあります。

工事面積ではなく、

生活へ与える変化の大きさ

で考えた方がよいと思います。


▽2026年、住宅政策も「既存住宅を使う」方向へ

2026年3月27日に閣議決定された新しい住生活基本計画は、2050年までの人口・世帯構成の変化を見据え、

「既存の住宅・住宅地の本格的な有効活用」

を住宅政策の大きな柱としています。

国は、これまで蓄積されてきた住宅ストックを市場を通じて最大限活用し、人生100年時代の時々のライフスタイルに合う住宅を確保できる循環型市場を目指しています。

数字でもその方向が示されています。

既存住宅取引とリフォームを合わせた市場規模は、

2023年度 16.9兆円

から、

2035年度 20兆円

を目標としています。

これまでの、

新築住宅を供給する市場

から、

今ある住宅を評価し、直し、流通させ、再び使う市場

へ重心が移ろうとしています。


▽2026年には政策名称も「住宅ストック循環」へ

国土交通省は2026年度、「住宅ストック循環促進事業」に関する各種調査・環境整備事業を進めています。

住宅履歴。

住宅査定評価。

消費者教育。

残価設定型住宅ローン。

など、住宅をつくることだけでなく、既存住宅を市場の中で循環させるための仕組みづくりが進められています。

なお、前年度まで実施された「長期優良住宅化リフォーム推進事業」は、2026年度には実施されていません。制度や補助金は年度ごとに変わるため、過去の記事やサイトだけを見て利用できると判断しないことが必要です。

住宅政策まで名称変更を続けるので、利用者側にもそれなりの読解力を要求してきます。


▽どのリノベーションを選べばよいのか

選択肢が増えると、

では自分にはどれがよいのか

という問題になります。

判断する時には、次の四つから考えると整理しやすくなります。

1.建物の問題

雨漏りはあるか。

耐震性はどうか。

断熱性能はどうか。

設備や配管は古くないか。

まず建物を調べます。

2.暮らしの問題

何が不便なのか。

収納なのか。

動線なのか。

寒さなのか。

家族構成なのか。

問題を具体化します。

3.残りの居住期間

あと5年住むのか。

30年住むのか。

子どもへ引き継ぐのか。

売却する可能性があるのか。

同じ住宅でも投資すべき範囲が変わります。

4.資金

一度に工事するか。

段階的に行うか。

将来の修繕資金を残すか。

第9回で考えた資金計画と合わせます。

この四つから、

フルリノベなのか。

部分改修なのか。

性能向上なのか。

段階改修なのか。

を決めます。


▽工事名称ではなく「目的」を先に決める

リノベーション相談で、

「フルリノベしたいです」

というところから始まることがあります。

しかし、

なぜフルリノベしたいのか。

と聞いてみると、

キッチンが使いにくい。

収納が少ない。

冬が寒い。

子どもが独立した。

という具体的な理由が出てきます。

場合によっては、

全面改修する必要はない

かもしれません。

反対に、

壁だけ変えたい

という希望から建物を調べた結果、

配管。

防水。

耐震。

まで直した方がよいこともあります。

だから最初に決めるのは、

工事規模ではありません。

何を解決するための工事なのか。

です。


▽法規は工事名称では判断しない

これは第6回ともつながります。

2025年4月から、2階建て木造一戸建て住宅などで主要構造部の大規模な修繕・模様替を行う場合、建築確認手続の対象が拡大されました。

したがって、

「部分リノベだから確認不要」

「フルリノベだから必ず確認が必要」

とは決められません。

実際に、

どの主要構造部を。

どの程度。

どう変更するか。

によって判断します。

用途変更を伴えば、さらに別の確認も必要です。

名称は自由でも、

建築基準法はこちらのネーミングセンスにはほぼ興味がありません。


▽これから増えるのは「組み合わせ型」だと思う

これからのリノベーションは、

フルリノベ。

部分リノベ。

性能向上。

という単独の分類ではなく、

組み合わせるケースが増えるでしょう。

例えば、

中古住宅購入+耐震補強+部分断熱+既存建具再利用

あるいは、

空き家+コンバージョン+オーダー家具+地域材

また、

高齢期対応+部分断熱+バリアフリー+段階改修

という具合です。

建物も暮らしも一棟ごとに違います。

ならば、

リノベーションも一つの商品パッケージに押し込める必要はありません。


▽まとめ

リノベーションには、さまざまな形があります。

全面的につくり直す

スケルトン・フルリノベーション。

必要な場所だけ変える

部分リノベーション。

住宅性能を高める

耐震・断熱・省エネ型。

人生の変化へ対応する

ライフステージ型。

身体へ合わせる

バリアフリー・身体適応型。

数年かけて進める

段階型。

家具によって空間を変える

家具型。

古材や建具を生かす

素材再生型。

用途そのものを変える

コンバージョン。

空き家やマンションを再生する

住宅ストック再生型。

どれも目的は同じです。

新しい建物へ交換することではありません。

今ある建物を、これから必要とされる姿へ変えること。

第16回で振り返った建築の歴史を見ても、建物は一つの用途、一つの姿だけで使われてきたわけではありません。

使う人が変わる。

社会が変わる。

技術が変わる。

その度に建築も変わります。

リノベーションとは、

完成した建物をもう一度完成させることではなく、

建物を未完成のまま次の時代へつないでいく技術

なのかもしれません。

だから、

フルリノベか。

部分リノベか。

という工事規模の議論より、

この建物を、

誰が。

何のために。

あと何年。

どう使うのか。

そこから考える。

それが「リノベーションのさまざまな形」を選ぶ基準になると思います。

次回、第18回は、

「これからリノベーションはどう変わるのか」

人口減少、AI、建設技能者不足、住宅性能、エネルギー、タワーマンション、建材循環などを踏まえ、

2030年、2040年、その先のリノベーション

について考えます。


最後までお読みいただき、ありがとうございます。

 リフォーム・リノベーション、オーダー家具など、住まいや建築についてのご相談および記事に関するご意見等がございましたら、お気軽にお問い合わせください。

 お問い合わせはこちらまで


参考資料

  • 国土交通省「新たな住生活基本計画(全国計画)」


    2026年3月27日閣議決定


    参照日:2026年8月25日。

  • 国土交通省「住生活基本計画に係る成果指標・業績指標」


    既存住宅取引及びリフォーム市場:2023年度16.9兆円 → 2035年度20兆円


    参照日:2026年8月25日。

  • 国土交通省「住宅ストック循環促進事業」


    2026年度事業


    参照日:2026年8月25日。

  • 国土交通省「空家等の既存建築物の用途変更許可の弾力化について」


    参照日:2026年8月25日。

  • 国土交通省「空き家対策 特設サイト」


    参照日:2026年8月25日。

  • 国土交通省「建築確認・検査の対象となる建築物の規模等の見直し」


    2025年4月1日施行


    参照日:2026年8月25日。

コメント


bottom of page