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暮らしを再設計する リノベーションのこれから|第16回

9月17日
読了時間: 14分

建築は壊すものか、使い継ぐものか

リノベーションの歴史から考える日本とタワーマンションの未来


建築は壊すものか、使い継ぐものか…リノベーションの歴史から考える日本とタワーマンションの未来
建築は壊すものか、使い継ぐものか…リノベーションの歴史から考える日本とタワーマンションの未来


これまでこのシリーズでは、

暮らし方、建築法規、性能、防災、資金、資産価値、維持管理、多様性、地域性など、

さまざまな角度からリノベーションについて考えてきました。

ここで一度、少し時間を巻き戻してみたいと思います。

そもそも、

古い建物を直して使うという行為は、いつから始まったのでしょうか。

「リノベーション」という言葉自体は比較的新しく感じます。

中古マンションを購入して間取りを変更する。

古い戸建住宅をスケルトン状態にして再生する。

倉庫を店舗へ変える。

近年広がった新しい住宅文化のようにも見えます。

しかし、建築の歴史を振り返ると、話はむしろ逆です。

建物を壊して、そのたびに新しい建物を建てる。

この方が、人類の長い建築史から見れば特殊なのかもしれません。


東京大学大学院教授で西洋建築史を研究する加藤耕一氏は、

著書『時がつくる建築―リノベーションの西洋建築史』で、既存建物の再利用は古代末期以来、繰り返し行われてきた本質的な建築行為だったと論じています。

古くなったら壊す。

ではなく、

古くなったら、

次の時代に合わせて使い方を変える。

リノベーションは、新しい建築手法というより、かなり古い建築の方法なのです。


▽ヨーロッパの建物は「完成した時」で終わらない

ヨーロッパの街を歩くと、日本とは時間の流れ方が違うように感じることがあります。

数百年前につくられた建物が、

住宅。

店舗。

ホテル。

美術館。

役所。

として普通に使われています。

もちろんヨーロッパと一括りにはできませんし、木造建築もあります。

それでも歴史的な都市では、石や煉瓦などによる組積造の建物が多く残り、建物を改修しながら使い続けてきた長い歴史があります。

加藤氏の研究によれば、西洋建築史では、社会制度や宗教、都市のあり方が変わるたび、既存建物が別の用途へ転用されてきました。

古代の建物の部材を別の建物へ再利用する。

教会を別用途へ変える。

宮殿を公共施設へ変える。

建物を構成している材料も、建物そのものも再利用する。

建築は、

建てる。

使う。

壊す。

という一直線ではありませんでした。

建てる→使う→変える→また使う

という循環を繰り返してきたのです。


▽石造だから建物が残ったのか

ヨーロッパの建物が長く残っている理由として、

「石造だから長持ちする」

という説明を聞くことがあります。

確かに、木造に比べて石や煉瓦の躯体が長く残りやすいことは、一つの要因でしょう。

しかし、それだけでは説明できません。

建物が長く残るためには、

壊さず使う社会的な意思。

直せる職人。

補修する技術。

建物へ新しい用途を与える設計。

そして、その建物に価値があると考える社会。

が必要です。

いくら頑丈な建物でも、

古いから価値がない

と思えば壊されます。

反対に、

残して使いたい

という意思があれば、補強し、設備を更新しながら使い続けられます。

建物の寿命は、材料だけでは決まりません。

その社会が建物をどう見るか

によっても変わります。


▽建築には三つの向き合い方があった

加藤氏は、西洋建築史を通して、既存建物に対する考え方を大きく三つに整理しています。

一つ目は、

再利用する。

古い建物を改変しながら、新しい社会に合わせて使い続ける。

二つ目は、

再開発する。

既存建物を壊し、更地にして新しい建物をつくる。

三つ目は、

文化財として保存する。

建物を歴史的価値のあるものとして保存する。

興味深いのは、

再利用と保存は同じではない

という点です。

保存は、

できるだけ元の姿を守る。

再利用は、

必要なら姿を変えてでも、建物を生かす。

という考え方です。

加藤氏は、20世紀末以降のリノベーションの広がりについて、保存か破壊かという二者択一の間にあった「建物を改変しながら使い続ける」という建築観が再び表面化したものとして捉えています。

これは現在のリノベーションを考えるうえでも、非常に面白い視点です。


▽古いものを残すことと、昔へ戻すことは違う

古い住宅のリノベーションを行う時、

昔の状態へ戻せばよい

わけではありません。

100年前の家へ、

100年前と同じ暮らしをする必要はありません。

電気。

水道。

エアコン。

断熱。

耐震。

通信。

現代の生活に必要な性能は加えます。

一方で、

柱。

梁。

建具。

土間。

古材。

など、現在でも使えるものは残せます。

つまりリノベーションとは、

過去を保存するだけではなく、

過去の建物へ、現在の暮らしを重ねること

です。

建物に時間を追加する。

そんな行為ともいえます。


▽日本はなぜスクラップ&ビルドになったのか

一方、日本では戦後長い間、

古い住宅を壊し、新築する

という考え方が強くありました。

戦災からの復興。

高度経済成長。

人口増加。

都市への人口集中。

住宅不足。

耐震基準や住宅性能の変化。

さまざまな理由があります。

大量の住宅を短期間につくる必要があった時代には、スクラップ&ビルドにも合理性がありました。

古い住宅より新築。

中古住宅より新築。

そして住宅市場でも、

築年数が古くなるほど建物価値が低く評価される

という慣行が長く続きました。

その結果、

建物を直しながら100年使う

より、

30年、40年で建替える

という発想が強くなっていきました。


▽新築できる日本を羨む建築家もいる?

以前、

ヨーロッパの建築に携わる人たちは、逆に日本の建築家を羨ましがることがある

という話を聞いたことがあります。

歴史的建物を使い続けることが前提の社会では、

既存の壁。

既存の窓。

既存の構造。

既存の街並み。

という制約の中で設計します。

一方、日本ではスクラップ&ビルドによって新築の機会が多く、

新しい構造。

新しい材料。

新しい設備。

新しいデザイン。

を一から試す機会が多かった。

建築家にとっては、これは確かに魅力的な環境とも考えられます。

ただし、

「ヨーロッパの建築関係者は皆、日本を羨んでいる」

という一般的な事実までは、今回確認した公開資料から確認できません。

ここでは、

新築する自由が大きい日本。

既存建物と向き合う機会が多いヨーロッパ。

それぞれに異なる建築的な自由と制約がある、

という一つの視点として考えたいと思います。


▽ReHacQで語られた「1000年の建築」

この記事を書くきっかけになったのが、ReHacQ R大学の

「高橋弘樹vs東大教授 西洋建築史入門!なぜヨーロッパの建築は美しいのか?」

という動画でした。

出演しているのは、高橋弘樹氏と東京大学大学院教授の加藤耕一氏です。

ReHacQ公式の紹介でも、

「なぜヨーロッパには1000年前の建物が今も残り、日本では新築を建て替え続けるのか」

という問いが番組の軸として紹介されています。

加藤氏は2017年の著書『時がつくる建築』でも、

建築の長い歴史から見れば、既存建築の再利用は重要な建築的創造行為だった

という視点から、西洋建築史を読み直しています。

これは、

リノベーションは新築より創造性が低い

という考え方を完全にひっくり返します。

既存建物があるからこそ、

どう残すか。

どう壊すか。

どうつなぐか。

どう異なる時代を共存させるか。

という、新築にはない設計が生まれるからです。


▽新築は「白紙」、リノベーションは「続きを書く」

新築を本に例えるなら、

白紙の本へ最初から物語を書く作業です。

リノベーションは、

すでに途中まで書かれている本の続きを書く作業です。

前の作者がいる。

すでに登場人物がいる。

途中まで物語が進んでいる。

そこへ新しい章を追加する。

好き勝手には書けません。

しかし、

その制約があるから面白い。

建築も同じです。

柱がある。

梁がある。

窓がある。

傷がある。

材料に年月がある。

それを全部消して新築のように見せるのではなく、

既存建物との対話から新しい空間をつくる。

これがリノベーションの創造性です。


▽環境問題から見ても「壊さない」という選択

現在、建築は環境負荷という別の問題にも向き合っています。

建物を建てるためには、

コンクリート。

鉄。

アルミ。

ガラス。

木材。

大量の資源とエネルギーを使います。

建物を解体すれば、廃棄物も発生します。

EUでは、既存建築物を改修しながら2050年の脱炭素化を目指す政策が進められています。

欧州委員会の資料では、EUの建物ストックの約35%が築50年超、40%超が1960年以前に建設された建物です。

さらに2050年時点の建物ストックの約80%は、すでに現在存在している建物になると推計されています。

つまりヨーロッパでは、

新築だけを高性能化しても間に合いません。

既存建物をどう改修するか

そのものが環境政策になります。

これは日本もいずれ同じ問題へ向かうでしょう。


▽そして日本には「壊しにくい建物」が大量に残る

ここから、日本の未来を考えてみます。

これまで日本は、

古くなったら建替える

ことが比較的容易な社会でした。

しかし、これからも同じことができるでしょうか。

例えばマンションです。

国土交通省によると、築40年以上の分譲マンションは、

2023年末 約137万戸

でした。

これが、

2033年末 約274万戸

さらに、

2043年末 約464万戸

へ増えると推計されています。

20年間で約3.4倍です。

建物が高齢化すると同時に、住民も高齢化します。

築40年以上のマンションでは、世帯主が70歳以上の住戸割合が55%に達しているという調査結果もあります。

国土交通省はこれを、

建物と居住者の「二つの老い」

という問題として捉えています。


▽タワーマンションは「スクラップ&ビルド」できるのか

そして、これから大きな問題になるのがタワーマンションです。

日本では1990年代後半から2000年代以降、大都市を中心に多くの超高層マンションが建てられてきました。

今はまだ、

新しい。

便利。

資産価値が高い。

というイメージが強い建物です。

しかし建築である以上、必ず時間が経ちます。

外壁。

防水。

エレベーター。

給排水管。

受変電設備。

機械式駐車場。

非常用電源。

空調。

さまざまな設備が更新時期を迎えます。

そして戸建住宅のように、

「古くなったから壊して建替えよう」

と簡単にはいきません。

数百戸、場合によっては千戸規模の区分所有者がいます。

建替えには、

多額の費用。

住民の合意。

仮住まい。

都市計画。

工事期間。

という巨大な問題が伴います。

かつて日本が得意としてきたスクラップ&ビルドが、

建物の巨大化によって、自ら難しくなっていく

という少し皮肉な状況です。


▽未来のタワマンは巨大な「リノベーション建築」になる

国土交通省のマンション長寿命化モデル事業では、すでに超高層マンションについて、

温熱環境改善。

排水管更新。

設備更新。

地下電気設備の浸水対策。

非常用設備。

などを検討する事例が採択されています。

これは非常に象徴的です。

未来のタワーマンションに必要なのは、

建替える技術

だけではありません。

建てた巨大建築を、どう更新し続けるかという技術

です。

専有住戸のリノベーション。

共用配管の更新。

窓や外皮性能の改善。

エレベーター更新。

電気設備更新。

防災性能向上。

バリアフリー化。

場合によっては用途そのものの変更。

タワーマンションは、

完成した一つの建築作品

ではなく、

数十年ごとに更新され続ける巨大な建築ストック

として捉える必要が出てくるでしょう。


▽ヨーロッパから学ぶべきなのは「石造建築」ではない

ヨーロッパの街並みを見て、

石造建築だから長持ちしていいな

で終わってしまうと、本質を見失います。

学ぶべきなのは、

石という材料そのものではありません。

建物は、時代に合わせて手を入れながら使い続けられる

という建築観です。

設備を更新する。

内部を変える。

用途を変える。

新しい部分を追加する。

そして必要なら、また次の世代が変える。

完成した瞬間を建築の頂点とするのではなく、

時間の中で変化していくことを前提にする。

これこそ、日本がこれから必要とする考え方ではないでしょうか。


▽日本の建築技術は「建てる」から「生かす」へ

日本には、新築を大量につくったことで培われた優れた建築技術があります。

構造。

設備。

施工。

材料。

プレファブ化。

工業化。

短期間で高品質な建築をつくる技術は世界でも高い水準にあります。

これからは、その技術を、

壊して新しくする

ためだけでなく、

今ある建物を使い続けるために使う

時代になるのではないでしょうか。

既存建物を調べる技術。

耐震補強。

断熱改修。

設備更新。

素材再利用。

用途変更。

そしてリノベーション。

これは、

新築できなくなったから仕方なく行う工事

ではありません。

次の建築技術を試す場所でもあります。


▽リノベーションは「古いものを直す仕事」ではない

シリーズを通して、何度も触れてきました。

リノベーションは、

古い住宅をきれいにすること

ではありません。

建物が生きてきた時間を理解し、

今の暮らしを重ね、

そして次の時間へつなぐことです。

ヨーロッパの歴史的建築も、

建築された当時のまま残っているものばかりではありません。

何度も手が加えられています。

その変更も含めて、その建物の歴史です。

同じことは、

築30年の木造住宅。

築40年のマンション。

築100年の古民家。

そして将来、

築50年になったタワーマンション

にもいえるはずです。


▽「何年もつ建物か」から「何年使い続けられる建物か」

住宅を考える時、

この建物は何年もつのか

と聞くことがあります。

しかし、本当は少し問いを変えた方がよいのかもしれません。

何年もつか。

ではなく、

何年使い続けられるようにつくってあるか。

設備を交換できるか。

配管を直せるか。

間取りを変更できるか。

性能を向上できるか。

記録が残っているか。

次の世代が手を入れられるか。

建物の寿命は、

最初につくられた性能だけではなく、

後から変えられる能力

にも左右されます。

これは、これまでこのシリーズで考えてきた、

可変性。

住宅履歴。

性能向上。

維持管理。

素材循環。

すべてにつながります。


▽まとめ

リノベーションは、最近生まれた建築文化ではありません。

西洋建築史を振り返れば、既存建物の再利用は古代末期以来繰り返されてきた、本質的な建築行為でした。

建物は、

建てた時に完成し、

古くなったら終わる

ものではありません。

時代が変われば、

使い方を変える。

性能を加える。

材料を入れ替える。

必要なら用途まで変える。

そして、また次の時代へ渡す。

日本は長い間、スクラップ&ビルドによって新しい建築をつくり続けてきました。

その結果、新しい技術やデザインを試す機会に恵まれた面もあったでしょう。

しかしこれから、

人口が減少し、

空き家が増え、

マンションが高経年化し、

巨大なタワーマンションという建築ストックまで残っていきます。

築40年以上のマンションは、2023年の約137万戸から2043年には約464万戸へ増える見込みです。

これらを全部壊し、新しくつくり直す。

それが現実的な答えとは考えにくいでしょう。

むしろ、

日本もようやく、

建てる技術と同じくらい、使い続ける技術が必要な時代

へ入ろうとしているのだと思います。

ヨーロッパの石造建築をそのまま真似する必要はありません。

日本には日本の構造があります。

地震があります。

湿気があります。

木造があります。

鉄筋コンクリートがあります。

そしてタワーマンションがあります。

重要なのは、

建物を何でつくるか

だけではなく、

つくった建物と、その後どう付き合うか。

リノベーションの歴史を振り返ると、

「これからのリノベーション」

とは、案外、

ずっと昔から人間がやってきた建築へ戻っていくことなのかもしれません。

壊して、新しくする。

から、

残して、変えて、使い続ける。

その転換が、

これからの日本の住宅と都市を考える大きなテーマになるのではないでしょうか。

次回は、

「フルリノベだけではない、リノベーションのさまざまな形」

をテーマに、住宅、店舗、コンバージョン、部分改修、性能向上型など、現在広がっているリノベーションの形を整理します。


最後までお読みいただき、ありがとうございます。

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