暮らしを再設計する リノベーションのこれから|第13回
- kojo masaaki

- 4 日前
- 読了時間: 15分
気候・風土・街並みから考える地域性のあるリノベーション

全国どこでも同じ家でよいのだろうか
住宅設備のカタログを開けば、北海道でも神奈川県でも九州でも、同じキッチンや浴室を選ぶことができます。
床材も壁紙も照明器具も、インターネットで全国から購入できます。
住宅の工業化が進んだことで、地域にかかわらず一定の品質を持つ住宅をつくれるようになりました。
これは大きな進歩です。
しかしその一方で、
北海道の住宅。
湘南の住宅。
京都の町家。
沖縄の住宅。
が、すべて同じ考え方でよいのでしょうか。
気温が違う。
湿度が違う。
風向きが違う。
日射が違う。
雨の降り方が違う。
海からの距離も違う。
災害リスクも違う。
そして、その土地で積み重ねられてきた暮らし方や街並みも違います。
結論からいえば、
地域性のあるリノベーションとは、地域らしい装飾を加えることではなく、その土地の条件を読み、建物の性能と暮らし方へ反映すること
だと考えます。
古民家だから格子を付ける。
海の近くだから白い壁と青い扉にする。
それだけでは地域性とはいえません。
なぜ、その地域では庇が深いのか。
なぜ、その方角に窓があるのか。
なぜ、その材料が使われてきたのか。
そこまで考えると、地域と住宅の関係が見えてきます。
▽日本は一つの気候ではない
日本列島は南北に長く、地域によって気候条件が大きく異なります。
寒冷地では、
冬の寒さ。
積雪。
凍結。
が住宅設計へ大きく影響します。
温暖地では、
夏の日射。
湿度。
通風。
台風。
への対策が重要になります。
沿岸部では、さらに海から運ばれる塩分による金属部の腐食なども考えなければなりません。
国土交通省は、地域の気候や風土に適応した住宅について「気候風土適応住宅」という制度を設けています。
2026年4月22日更新の国土交通省資料では、土塗壁、大きな開口部、通風、日射制御など、地域の気候・風土・文化を踏まえた住宅の工夫を評価しています。
つまり国の住宅政策でも、
全国一律の性能だけでは説明できない住宅の価値
が認識されています。
▽地域性は「昔の住宅」の話ではない
気候風土に適応する住宅というと、
古民家。
茅葺き。
土壁。
木製建具。
といった伝統住宅を想像するかもしれません。
確かに、地域の伝統住宅には、その土地で長く暮らすための知恵が残されています。
しかし、その知恵をそのまま昔の形で再現すればよいわけではありません。
例えば、
深い軒で夏の日射を遮る。
風の入口と出口をつくる。
縁側や土間を、室内と屋外の間の緩衝空間として使う。
冬の日射を室内へ取り込む。
こうした考え方は、現代の住宅にも応用できます。
国土交通省が公開している気候風土適応住宅の事例でも、深い軒、大きな開口、引戸、土間、縁側などが、日射遮蔽や通風、温熱的な緩衝空間として利用されています。
伝統を保存することと、
伝統の考え方を現代へ翻訳すること。
これは少し違います。
リノベーションで必要なのは、後者です。
▽湘南の住まいを考える
例えば湘南地域。
海。
比較的温暖な気候。
夏の日射。
潮を含んだ風。
台風や強風。
こうした条件があります。
海が見えるから大きな窓をつくる。
これは魅力的です。
しかし、大きな西向きの窓は、夏になると大量の日射を室内へ入れる可能性があります。
そこで、
庇。
外付けブラインド。
簾。
植栽。
Low-E複層ガラス。
などを組み合わせます。
景色を見るための窓と、
熱を入れないための工夫を、
同時に考える必要があります。
また沿岸部では、外部金物、設備機器、手すり、ビスなどについて、腐食への配慮も必要になります。
国土交通省が公開している温暖・沿岸地域の気候風土適応住宅事例でも、紫外線や塩害に対する耐候性が設計上の要素として扱われています。
「海辺らしい家」をつくるということは、
海を感じるデザインをつくることだけではありません。
海辺だから起こる建物への負荷まで考えること
です。
▽窓を開ければ風が通るとは限らない
「風通しのよい家」という言葉があります。
窓を大きくすれば風が通るように思えます。
しかし、窓が一つだけでは空気は十分に動かない場合があります。
風の入口。
出口。
その間の経路。
が必要です。
地域の風向きも重要です。
国土交通省が公開する神奈川県海老名市の気候風土適応住宅事例では、夏季に多い南風を考慮し、南北に風が抜けるよう開口部と引戸を配置しています。さらに南側や西側には竹簾を設け、夏の日射遮蔽と冬の日射取得を使い分けています。
同じ神奈川県でも、
海沿い。
内陸。
山側。
では風の条件が違います。
方角だけで機械的に窓を決めるのではなく、
その敷地に実際にどのような風が来るのか
を見る必要があります。
▽夏の日射は「窓の外」で止める
近年の住宅では断熱性能が重視されています。
もちろん重要です。
しかし夏の暑さを考える場合、
断熱だけではなく、
室内へ熱を入れないこと
も重要です。
特に西日は強い負荷になります。
カーテンや室内ブラインドでも眩しさは抑えられます。
ただし、太陽光がガラスを通過した後に遮るため、熱の一部はすでに室内へ入っています。
そこで、
庇。
外付けブラインド。
簾。
落葉樹。
など、窓の外側で日射を遮る方法があります。
夏は遮り、
冬は取り込む。
太陽を敵にするのではなく、
季節によって使い分ける。
昔の住宅では当たり前に行われていたことです。
▽植栽も住宅性能の一部
庭は、住宅を飾るためだけのものではありません。
落葉樹を南側へ植えれば、
夏は葉が日射を遮り、
冬は落葉して日射を室内へ入れる
という働きが期待できます。
植栽によって地表面の温度上昇を抑えたり、窓へ直接当たる日射を和らげたりすることもできます。
国土交通省の海老名市の事例でも、高木・中木・低木を組み合わせた敷地内緑化によって、日射や通風への配慮を行っています。
外構と建築を別々に考えず、
庭まで含めて室内環境をつくる。
これも地域性のある住まい方です。
▽寒冷地では逆のことを考える
温暖地で重要なのが夏の日射遮蔽だとすれば、寒冷地では冬の日射取得が重要になる場合があります。
南面の窓から日射を取り込む。
北側の窓面積を抑える。
冷たい風を直接受けないようにする。
玄関や縁側を緩衝空間として使う。
断熱性能を高める。
同じ「大きな窓」でも、
温暖地では日射遮蔽が問題になり、
寒冷地では冬の日射取得に利用できる。
住宅設計は、カタログの性能値だけでは決まりません。
どこに建っているかによって、同じ部材の意味が変わります。
▽気候変動によって「地域性」そのものも変わる
ここで考えなければならないのが、気候変動です。
昔の地域気候だけを基準にしていればよいわけではありません。
環境省は2026年2月に最新の気候変動影響評価を公表し、すでに現れている影響だけでなく、中長期的に避けられない影響へ適応していく必要性を示しています。
さらに2026年6月25日には、次期気候変動適応計画の骨子が取りまとめられました。
これからの住宅では、
これまでの気候に合わせる
だけではなく、
これから変わる気候にも対応できるか
を考える必要があります。
暑さ。
豪雨。
台風。
洪水。
こうしたリスクを、地域条件として住宅へ反映させます。
▽地域性と防災はつながっている
第8回では、水害や地震への備えを考えました。
防災も地域性と切り離せません。
河川の近く。
海岸。
崖地。
埋立地。
密集市街地。
場所によって想定すべき災害は違います。
そのため、
全国共通の「災害に強い家」
という一つの答えはありません。
洪水リスクが高い地域なら、
設備を高い位置へ設ける。
電気設備を浸水から守る。
上階へ避難できる動線を考える。
強風の多い地域なら、
屋根。
外装。
窓。
外構。
の耐風性を考える。
地域性を読むとは、
風情を読むだけではなく、
その土地が持つ危険も読むこと
です。
▽街並みも住宅の一部
住宅は、敷地境界の内側だけで成立しているわけではありません。
外へ出れば街があります。
隣の家。
道路。
庭。
商店。
学校。
公園。
それらが集まって地域の風景がつくられます。
リノベーションで外観を変更する場合、
自分の家だけ目立てばよい
というものでもありません。
例えば古い町並みに残る住宅で、
突然まったく関係のない外装へ変えてしまえば、その家だけでなく街並み全体の連続性が失われることがあります。
一方、古いものを何でも保存すればよいわけでもありません。
断熱。
防水。
耐震。
設備。
現代の生活に必要な性能は更新します。
残すもの。
変えるもの。
その境界を考えます。
2026年3月27日に閣議決定された住生活基本計画でも、2050年に目指す姿として、地域の気候・風土・文化に根ざした住まいづくりや住まい方を含め、伝統的な住文化を地域の担い手によって継承することが掲げられています。
▽古い家に残された理由を考える
古い住宅を改修すると、
なぜここに窓があるのだろう。
なぜこの柱だけ太いのだろう。
なぜこんなに深い庇があるのだろう。
と思うことがあります。
現代の生活には不要なものもあります。
しかし、長い時間残ってきた形には、何らかの理由がある場合があります。
雨を避ける。
日差しを防ぐ。
風を通す。
人を迎える。
家族が集まる。
地域の行事に対応する。
単に古いから撤去するのではなく、
なぜそうなっているのかを一度考える。
それから残すか変えるかを判断します。
▽地域材料を使う意味
地域性のある住宅というと、地域産材の利用が挙げられます。
地元の杉。
檜。
石。
土。
左官材料。
こうした材料を使うことには、意匠以上の意味があります。
地域の職人が扱い慣れている。
補修材料を調達しやすい。
地域の建築産業を支えられる。
輸送距離を抑えられる場合がある。
といった点です。
国土交通省の気候風土適応住宅事例でも、地域産材や地元の製材所・職人を活用し、修繕しやすい住宅をつくる例が紹介されています。
ただし、
地元材だから必ず環境に優しい。
地域材だから必ず長持ちする。
と一律には言えません。
品質。
乾燥。
加工。
施工。
メンテナンス。
まで含めて判断します。
▽職人も地域の住宅資源
建築材料だけではなく、
その材料を扱える人
も地域資源です。
左官。
大工。
建具。
瓦。
板金。
石工。
こうした職人技術が地域からなくなると、既存建物を修繕できなくなります。
特殊な海外製品を使った住宅では、製品が廃番になると補修できないことがあります。
一方、地域で昔から使われてきた材料や工法には、地元で修理できる利点がある場合があります。
住宅を長く使うためには、
つくれることより、直せること
も重要です。
リノベーションによって地域の職人へ仕事がつながれば、その技術を次の住宅へ残すことにもなります。
▽古材や建具を残すことも地域性になる
リノベーションでは、
古い梁。
建具。
欄間。
床板。
家具。
などを再利用することがあります。
それらは、単なる中古材料ではありません。
その住宅が建てられた時代。
地域の材料。
職人技術。
暮らし方。
を伝えるものでもあります。
すべてを新品に入れ替えれば、建物はきれいになります。
しかし同時に、
その場所にしかなかった情報
まで失う可能性があります。
性能上問題がないもの。
補修して使えるもの。
新しい暮らしに生かせるもの。
は残す。
第15回で取り上げる素材循環型リノベーションともつながります。
▽「景観」は観光地だけの話ではない
景観というと、
京都。
鎌倉。
歴史的な街並み。
などを想像しがちです。
しかし普通の住宅地にも景観があります。
生垣が続く街。
低い塀の街。
屋根の形がそろっている街。
庭の緑が多い街。
家を一軒改修するだけでは大きな影響がないように見えます。
しかし、住宅が一軒ずつ変わった結果が街並みです。
道路側をすべて高い目隠し壁で閉じれば、
住戸内のプライバシーは上がるかもしれません。
一方、
街から人の気配や緑が消える
こともあります。
住宅の安全性やプライバシーと、
街とのつながり。
その間を設計します。
▽地域の生活文化も見る
気候や材料だけではなく、
地域でどのように暮らしてきたか
も住宅の形に影響します。
玄関先で近所の人と話す。
庭で作業する。
祭りの時に人が集まる。
海から帰って外で砂を落とす。
農作業の道具を収納する。
自転車を多く使う。
地域によって生活行為が違います。
住宅を雑誌の中の理想生活に合わせるのではなく、
実際の地域生活を見る。
例えば湘南なら、
サーフボード。
自転車。
アウトドア用品。
外部シャワー。
土間収納。
などが実際の生活と結びつく住宅もあります。
これも地域性です。
ただ「湘南風」という内装にすることとは別の話です。
▽地域性と省エネは対立しない
伝統住宅と高断熱住宅。
自然通風とエアコン。
昔の暮らしと現代設備。
どちらかを選ぶ必要はありません。
2025年4月から新築住宅について省エネ基準適合が原則義務化されていますが、国土交通省は、地域の気候風土に応じた伝統的構法について「気候風土適応住宅」の仕組みを設けています。
2026年度版の解説も公開されており、地域の気候風土・文化を尊重しながら、エネルギー消費性能を考える制度となっています。
つまり、
昔の知恵を捨てて機械設備へ置き換える
のでも、
昔ながらの住宅だから性能を考えない
のでもありません。
地域の知恵と現代の技術を組み合わせる。
それが現実的です。
▽自然風を使うこととエアコンを使わないことは違う
通風を考えた住宅だから、
エアコンを使わない。
という話ではありません。
猛暑時には、冷房を適切に使用する必要があります。
一方、春や秋など外気が快適な時期には、
窓を開ける。
高窓から熱を抜く。
風を通す。
といった方法を使えます。
自然環境と機械設備を対立させない。
外が快適なら自然を使う。
危険な暑さなら設備を使う。
住宅側に選択肢を持たせることが大切です。
▽リノベーションだからできる地域への適応
新築とは違い、リノベーションには既存建物があります。
方位も変えられない。
敷地も変えられない。
隣家も変えられない。
それでもできることはあります。
西側窓へ外付け日射遮蔽を設ける。
南側へ庇を付ける。
風が抜ける位置へ室内建具を変更する。
断熱性能の弱い窓を改修する。
庭へ落葉樹を植える。
腐食した外部金物を地域環境に適したものへ交換する。
玄関へ土間収納を追加する。
つまり、
建物を土地に合わせて一からつくることはできなくても、
今ある建物を、その地域へもう一度適応させ直すことはできます。
これもリノベーションの役割です。
▽地域を読むための七つの視点
リノベーションを計画する時には、その土地について次の七つを見ます。
1.太陽
夏と冬の日射方向。
2.風
季節ごとの風向きと強さ。
3.雨と水
豪雨、洪水、排水、土地の高さ。
4.温度と湿度
夏の暑さ、冬の寒さ、結露。
5.災害
地震、水害、高潮、津波、土砂災害。
6.街並みと文化
地域の建物、暮らし方、人との距離。
7.材料と人
地域材、職人、修繕できる仕組み。
この七つを見ると、
単なる内装リフォーム
だった計画が、
その場所だから成立する住宅
へ変わります。
▽まとめ
地域性のあるリノベーションとは、
古民家風にすることでも、
地域の名産品を飾ることでもありません。
その土地の、
太陽。
風。
雨。
湿度。
災害。
街並み。
材料。
暮らし。
を読み取ることです。
湘南の海辺と、
雪国の山間部と、
都市部のマンションで、
同じ答えになるはずがありません。
そして、気候そのものも変化しています。
環境省は2026年、気候変動によってすでに現れている影響に加え、中長期的に避けられない影響へ適応する必要性を改めて示しています。
これからの住宅には、
今までの地域環境に適応すること。
そして、
これから変化する地域環境にも対応すること。
その両方が必要になります。
昔の住宅には、その土地で暮らしてきた人たちの経験が残っています。
深い軒。
土間。
縁側。
引戸。
植栽。
それらをそのままコピーする必要はありません。
なぜ、その形になったのか。
その理由を読み、
現代の断熱。
空調。
設備。
構造。
防災。
と組み合わせる。
地域性とは、昔へ戻ることではありません。
その土地で、これからも暮らし続ける方法を考えること。
リノベーションによって建物を地域へ適応させ直す。
それが、地域性から考えるリノベーションなのだと思います。
次回は、
「空間と家具を一緒に設計する、リノベーションとオーダー家具」
をテーマに、
建築が完成した後に家具を置くのではなく、収納、テーブル、ソファ、照明、配線まで空間と同時に考えるメリットを掘り下げます。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
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参考資料
国土交通省「気候風土適応住宅に関する情報」
最終更新:2026年4月22日
参照日:2026年8月25日。
国土交通省「気候風土適応住宅の解説 2026年度版」
更新:2026年4月1日
参照日:2026年8月25日。
国土交通省「住生活基本計画(全国計画)」
閣議決定:2026年3月27日
参照日:2026年8月25日。
環境省「次期気候変動適応計画の骨子を取りまとめました」
公表:2026年6月25日
参照日:2026年8月25日。
環境省「令和8年版 環境・循環型社会・生物多様性白書」
2026年公表
参照日:2026年8月25日。
国土交通省「気候風土適応住宅 採択事例」
海老名の緑陰山居、こふきの家、風と生きる花ブロックの家ほか
参照日:2026年8月25日。



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