1/fゆらぎと建築の関係
自然界の不規則なリズムから考える、心地よい住まいとリノベーションの可能性

はじめに|なぜ自然の中にいると心が落ち着くのでしょうか
木々の葉が風に揺れる音、静かに打ち寄せる波、焚き火の炎の動き、木漏れ日の移ろい。
私たちは、こうした自然の風景や音に心地よさを感じることがあります。
その理由の一つとして知られているのが「1/fゆらぎ(エフぶんのいちゆらぎ)」という現象です。
興味深いのは、自然界の現象が必ずしも一定の周期で繰り返されているわけではないということです。
波の高さは一つひとつ違い、風の強さも刻々と変化します。木々の枝ぶりや木目にも、全く同じものは存在しません。
そこには不規則さがありながら、どこか共通する秩序も感じられます。
一方、建築はどうでしょうか。
建築は、寸法を決め、水平と垂直を整え、材料を規格化し、計画通りに施工することで成立します。合理性や精度はもちろん大切ですが、均一で整いすぎた空間が、必ずしも心地よいとは限りません。
自然界に見られる不規則な秩序を、建築の設計や素材選びに取り入れることはできないのでしょうか。
今回は「1/fゆらぎ」を科学的な視点から整理し、住宅建築やインテリア、そしてリフォーム・リノベーションへの応用について考えてみたいと思います。
1.1/fゆらぎとは何か
1/fゆらぎとは、ある現象の変動を周波数ごとに分析した際、変動の強さを表すパワースペクトル密度が、周波数 \(f\) におおむね反比例する特性を指します。
数式で表すと、次のようになります。

簡単に言えば、細かな変化と、ゆっくりした大きな変化が、特徴的なバランスで共存する現象です。

規則的な変動と1/fゆらぎの違い
完全に規則的な変動は予測しやすい一方、単調にもなります。逆に、全く予測できない変動が続くと、落ち着かなく感じる場合があります。
1/fゆらぎは、単純な周期性とも無秩序なランダム性とも異なる統計的性質を持っています。
ただし、ここで注意したいことがあります。
1/fゆらぎが存在することと、人間が心地よく感じることは、同じではありません。
2015年の環境音に関する研究では、一般に好まれる自然音のすべてに1/f特性が確認されたわけではありませんでした。また、1990年の空調実験では、強い1/f変動を与えた送風は、ファンの騒音変化によって不快と評価されています。
つまり、1/fゆらぎを単純に「癒やしの周波数」と説明するのは正確ではありません。
建築に応用する場合も、この違いを理解しておく必要があります。
2.自然の不規則さと建築の美しさ
12
私たちが自然の美しさを感じる場面には、形の反復や変化が多く存在します。
樹木では、太い幹から枝が分かれ、さらに細い枝へと分岐していきます。海岸線も、遠くから見た輪郭と近くで見た細部に、複雑な凹凸があります。
こうした形態を考える際には、「フラクタル」という概念も重要です。
フラクタルは、異なる尺度に似た構造が現れる性質を表します。1/fゆらぎが主に時間的・空間的な変動のスペクトルを扱うのに対し、フラクタルは形態の階層性や自己相似性を考える概念です。
両者には関連する場合がありますが、同じものではありません。
2007年に発表された環境心理学の研究レビューでは、自然の構造や形態を建築に取り入れるバイオフィリックデザインの可能性が検討されています。さらに2019年の研究では、建築外観に見られる自然に近い視覚パターンが、自然らしさの評価や美的選好と関連することが示されました。

つまり、自然から学ぶ建築とは、単に植物を置いたり、木材を張ったりすることだけではありません。
素材の表情、形の反復、光と影、空間の奥行きといったものを総合的に考えることなのです。
3.日本建築には、もともと「ゆらぎ」を受け入れる知恵があった
日本の伝統建築には、自然の変化を建物の内側に取り込む工夫が数多くあります。
例えば、縁側。
縁側は、室内と屋外を明確に切り分けるのではなく、その間に緩やかな境界をつくっています。
季節によって日の入り方が変わり、庭の草木が風に揺れ、その影が床に映ります。
また、障子は直射光を拡散し、室内に柔らかな明るさを届けます。光は一日を通して変化し、同じ空間でも朝と夕方では異なる表情を見せます。
数寄屋建築では、竹、木、土、石など、それぞれの材料の持つ表情が生かされます。
整然と組まれた柱や梁の中にも、素材そのものの個体差が存在します。
これらをすべて1/fゆらぎと断定することはできません。しかし、一定の建築的秩序の中に、自然が生み出す小さな変化を受け入れるという考え方は、現代の住宅設計にも十分応用できるものです。
ここからは、実際のリフォームやリノベーションにどう取り入れられるのかを考えてみます。
4.リフォーム・リノベーションに応用する「ゆらぎ」の設計
1/fゆらぎを住宅改修に応用する場合、何も特殊な設備や高価な材料が必要というわけではありません。
むしろ、既存の住まいが持つ条件を読み取り、素材・光・風・音・視線の関係を組み立て直すことで、空間に自然な変化を与えられます。
ここで大切なのは、数学的な1/f特性を再現することではなく、自然が持つ多様な変化から設計のヒントを得るという姿勢です。
① 床材|均一性だけでなく、木目や色の変化を生かす
住宅の床は、室内で最も面積の大きな仕上げ面の一つです。
近年の複合フローリングやシート系床材は、色柄の均一性、施工性、耐久性などの面で優れています。
一方、同じ模様が一定間隔で現れる床材では、広い面積に施工した際に人工的な反復が目立つこともあります。
そこで検討したいのが、木目の表情を生かす床材です。
無垢フローリングでは、板ごとに木目、色調、節の位置などが異なります。天然木突板を使用した複合フローリングでも、製品によって自然な表情を取り入れることができます。
設計・施工時のポイントは、次のようなものです。
木目や色調が完全に均一であることにこだわりすぎない
濃淡のある材料を使用する場合は、仮並べで全体のバランスを確認する
柄の繰り返しが明瞭なシート材は、割付方向や採光との関係を確認する
材料ごとの反り、伸縮、含水率、床暖房への適合性、マンションの遮音規定も併せて検討する
ここで勘違いしてはいけないのは、節や色のばらつきが多ければ多いほど心地よいというわけではないことです。
木の個性をどこまで見せるかは、部屋の広さ、家具との調和、住む人の好みによって変わります。
② 壁と天井|自然素材の「表情」を設計する
壁や天井にも、ゆらぎの考え方を応用できます。
例えば、左官仕上げの壁です。
漆喰や珪藻土系の塗り壁は、仕上げ方によって表面に細かな凹凸が生じ、光の当たり方で陰影が変化します。
無垢の板張り、天然木突板、石材なども、自然由来の不均一な表情を持つ材料です。
ただし、素材が自然由来であることと、性能が優れていることは別問題です。
使用する際には、防火上の内装制限、清掃性、耐水性、耐久性、下地との適合性などを確認する必要があります。
特にリノベーションでは、仕上げ材だけを考えるのではなく、既存下地の状態や納まりまで含めて検討することが重要です。
Dropboxに保管されている『建築知識』1992年10月号の木質系内装材に関する資料でも、樹種だけでなく、杢目、艶、節、色調、テクスチャー、塗装方法などを組み合わせて空間の印象を設計する考え方が紹介されています。
30年以上前の資料ですが、材料を単なる商品ではなく、空間を構成する要素として扱う姿勢は現在にも通じています。
③ 照明|一定の明るさから、変化する光の空間へ
室内の照明計画では、必要な明るさを確保することが基本です。
しかし、部屋全体を均一に明るくすることだけが、快適な照明計画ではありません。
リビングなら、生活行為に必要な明るさを確保しながら、天井や壁への間接照明、フロアスタンド、局所照明などを組み合わせる方法があります。
さらに窓の位置、庇、レースカーテン、障子などによって、自然光の入り方を調整することもできます。
例えば、日中は外の明るさや木々の影が室内に入り、夕方から夜は柔らかな間接照明に切り替える。
このように時間とともに空間の表情を変えることは、住宅改修でも取り入れやすい考え方です。
ただし、意図的なちらつきや不規則な明滅をつくる必要はありません。光の変化は、まぶしさや視作業への支障がないことを前提に考えます。
照明設計の目的は、光を揺らすことではなく、光の強弱や時間による変化を生活にふさわしい形で受け止めることです。
④ 風と空調|一定の風速より心地よい場合もある
風は、1/fゆらぎの研究成果を設備設計に比較的直接結びつけやすい分野です。
1999年の日本建築学会の研究では、暑い環境から移動した被験者に対して、一定の風と変動する風を比較した結果、変動する気流が温熱快適性や快感情の向上に寄与することが報告されています。ただし、この実験の変動風は矩形波であり、1/fそのものを実証したものではありません。

住宅で取り入れるなら、エアコンやシーリングファン、サーキュレーターの風量・風向の制御に加え、自然通風も選択肢になります。
窓を2か所開ければ必ず風が抜けるというものではなく、外部の風向、開口位置、網戸、周辺建物などによって通風状態は変わります。
また、湘南のような海沿いの地域では、海風や湿気、塩分、強風への配慮も必要です。
自然通風は有効な手段ですが、高温多湿の日に無理に外気を取り入れる必要はありません。快適性や健康、結露対策を優先し、機械空調とうまく併用することが現実的です。
⑤ 格子・ルーバー・造作家具|反復の中に変化を与える
建築では、格子やルーバーのように同じ部材を繰り返すデザインがよく用いられます。
一定寸法で繰り返すことで、整然とした美しさが生まれます。
一方、木目の異なる部材を使用したり、光の当たる角度を変えたりすると、規則的な構成の中にも自然な変化が生じます。
ここで、格子のピッチを無理にランダムにする必要はありません。
むしろ、部材の寸法や基本的な割付は統一し、木材の色や表情、光と影によって変化をつくる方が、落ち着いた仕上がりになる場合があります。
造作家具でも同様です。
棚板の厚み、扉の目地、収納のモジュールには一定の秩序を保ち、オープン棚と扉付き収納の組み合わせ、素材の切り替え、奥行きの違いなどで空間に変化を持たせる。
秩序を失わず、単調さを和らげること。
これは、オーダー家具や造作工事を伴うリノベーションにおいて、特に応用しやすい設計手法だと思います。
⑥ 窓と外構|季節によって変化する景色を取り込む
住まいの心地よさを考えるとき、窓の向こうに何が見えるかは重要な要素です。
窓の外に樹木があれば、季節によって葉の色や密度が変わり、風によって枝葉が揺れます。室内に差し込む光も時間とともに変化します。
リフォームでは、既存の窓を単に大きくするのではなく、見せたい景色を整理するという方法もあります。
例えば、隣家の窓や道路からの視線を避けながら、庭の緑だけを切り取る。外構に植栽や木製ルーバーを設けて、外部環境との関係を調整する。
こうした方法は、限られた敷地条件の住宅でも検討できます。
ただし、採光を増やすことは、夏季の日射熱やまぶしさの問題にもつながります。米国エネルギー省も、窓の配置や庇、ルーバーなどを組み合わせ、採光と日射制御を両立する重要性を示しています。
自然を取り込む設計は、自然の影響を無条件に受け入れる設計ではありません。必要なときに遮り、必要なときに取り込めることが大切です。
⑦ 音|自然の音を生かすために、まず騒音を整える
雨の音、葉の揺れる音、遠くから聞こえる鳥の声。
こうした音は、暮らしに季節や時間の変化を伝えます。
しかし、すべての自然音に1/f特性があるわけではなく、自然音なら誰にとっても快適というわけでもありません。
住宅改修では、好ましい音を積極的に取り入れることより先に、交通騒音、設備騒音、隣室との遮音、室内の反響を整える必要があります。
特にマンションでは、床衝撃音対策や管理規約への適合が優先されます。木質系の吸音材やカーテン、家具の配置による反響の調整は、こうした基本性能を補完するものとして考えます。
5.実際のリノベーションで考える、空間づくりの具体例
例えば、築30年以上の戸建住宅のLDKを改修するとします。
既存の間取りは細かく区切られ、床には木目調のシートフローリング、壁と天井には白いビニルクロスが張られているとします。
この空間を、1/fゆらぎに着想を得た設計で改修するなら、次のような提案が考えられます。
LDKリノベーションの設計提案
床 | 色調に自然な変化のあるオーク系フローリングを採用し、板ごとの表情を生かす |
壁 | ベースは落ち着いた仕上げとし、一部に左官や木質パネルを用いて陰影をつくる |
天井 | 既存高さを基本とし、必要な部分に下がり天井や間接照明を設け、空間を緩やかに分ける |
家具 | 造作収納の寸法には秩序を持たせつつ、開放部分と扉部分を組み合わせる |
窓 | 庭への視線を確保しながら、レースやルーバーで光とプライバシーを調整する |
設備 | 空調の風が直接身体に当たり続けない配置とし、室内の温度分布にも配慮する |
設計イメージ。実際の施工では既存構造、法規、予算、設備条件などの調査が必要です。
この計画で重要なのは、すべての部位に変化を与えないことです。
床に自然な木目を採用したなら、壁はあえてシンプルにする。格子を使う場合も、周囲の造作家具は装飾を抑える。
空間には主役と背景が必要です。
変化のある部分を引き立てるためには、変化の少ない部分も欠かせません。
また、既存の柱、梁、古い建具などに魅力があれば、無理に新しい材料で覆わず、その表情を生かすことも考えられます。
このような設計は、建物の記憶を残すリノベーションとも相性が良いのではないでしょうか。
6.資材選定では「自然素材=快適」と考えない
リフォーム・リノベーションの材料選びでは、視覚的な心地よさに加え、性能と維持管理を確認する必要があります。
資材 | ゆらぎから考えられる魅力 | 設計上の注意点 |
無垢フローリング | 木目・色差・経年変化 | 伸縮、反り、傷、床暖房適合 |
天然木突板 | 自然な木目と寸法安定性の両立 | 表面材の厚み、摩耗、基材 |
漆喰・左官材 | 光によって表情が変化する凹凸 | ひび割れ、汚れ、下地 |
天然石 | 模様や色調の個体差 | 重量、滑り、吸水性 |
木製ルーバー | 陰影や視線の変化 | 清掃性、防火、固定方法 |
織物系カーテン | 光の透過や質感の変化 | 遮光性、洗濯、防炎性能 |
特に注意したいのは、「自然素材だから身体によい」「調湿材を使えば換気が不要になる」といった考え方です。
室内の空気環境は、材料からの放散物質、換気量、湿度、温度などによって決まります。米国環境保護庁(EPA)も、住宅改修において材料からの汚染源対策、湿気対策、換気を組み合わせる必要性を説明しています。
材料の魅力は、性能の裏付けと適切な施工によって初めて生かされます。
7.1/fゆらぎを数値で設計することはできるのでしょうか
ここまでさまざまな事例を挙げましたが、これらの空間が本当に1/fゆらぎを持つかどうかは、別途検証が必要です。
例えば、照明であれば時間による照度の変化、風であれば風速の時系列データを取得し、周波数分析を行うことが考えられます。
木目や格子についても、画像処理などによって空間的な周波数特性を分析することは可能です。
ただし、1/f特性が確認できたとしても、それだけで快適性が証明されるわけではありません。
また、室内の心地よさは、温熱環境、音、光、身体寸法、使いやすさ、個人の好みなど、多数の要因から成り立っています。
建築の良し悪しを一つの数値だけで評価することはできないのです。
そこで実務上は、1/fという数値への一致を目標にするのではなく、単調すぎず、雑然としすぎず、人が自然な変化を感じられる空間をつくることを設計方針とするのが現実的だと考えます。
8.これからの建築に必要な「変化を受け入れる設計」
近年の住宅建築は、高断熱、高気密、省エネルギー、耐久性など、さまざまな性能の向上を目指してきました。
これらの性能は、住まいの安全性や快適性を確保するために不可欠です。
しかし、人間が日々暮らす空間は、性能数値だけで成立するものではありません。
朝と夕方で光の表情が異なり、季節によって窓の外の景色が変わる。木材は時間とともに色合いを変え、使い込んだ家具には生活の痕跡が残っていく。
建築は、完成した瞬間がすべてではありません。
暮らしとともに変化し、その場所で長い時間を過ごすことで価値が生まれていくものです。
リノベーションには、こうした変化を受け入れる余地が多くあります。
すべてを新品に交換するのではなく、既存の材料の中から生かせるものを探す。均一な仕上がりを追求するだけでなく、時間とともに変化する素材を選ぶ。
建物の歴史や地域の風土を尊重することも、広い意味では、自然の秩序を住まいに取り入れることにつながるのかもしれません。

おわりに|心地よさは、均一な空間の先にある
1/fゆらぎという現象を調べていくと、人間の感覚と自然界との関係について、改めて考えさせられます。
もちろん、すべての自然現象が1/fゆらぎを持つわけではなく、1/fゆらぎがあれば必ず心地よいという科学的な結論もありません。
それでも、自然の持つ不規則な秩序から、建築が学べることは少なくないと思います。
寸法や構造には精度を求め、素材や光には変化を許容する。
機能的な部分は合理的につくりながら、人の感覚に触れる部分には豊かさを持たせる。
そのバランスこそが、これからの建築やリノベーションに必要なのではないでしょうか。
建築の役割は、自然を完全に再現することではなく、自然と人間の暮らしが無理なく共存できる環境をつくること。
1/fゆらぎという小さな視点から、住まいの心地よさをもう一度考えてみたいと思います。
参考資料・出典
公開論文とDropbox保管資料を確認。2026年10月23日現在。
三宅晋司ほか『Comfortableness of Fluctuating Air Flow』産業医科大学雑誌、1990年9月1日。論文
徐国海ほか『A Study on Physiological and Psychological Responses to Fluctuating Air Movement』日本建築学会計画系論文集、1999年5月30日。論文
Yang, M. ほか『Presence of 1/f noise in the temporal structure of psychoacoustic parameters of natural and urban sounds』Journal of the Acoustical Society of America、2015年8月18日。論文
Yannick Joye『Architectural Lessons from Environmental Psychology』Review of General Psychology、2007年。論文
『Psychological responses to natural patterns in architecture』Journal of Environmental Psychology、2019年4月。論文
『木質系内装材の活用適材適所』『木質系内装材の活用のための設計ポイント』(『建築知識』1992年10月号関連資料)
『自然素材のこだわりの話』
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
リフォーム・リノベーション、オーダー家具など、住まいや建築についてのご相談および記事に関するご意見等がございましたら、お気軽にお問い合わせください。
お問い合わせはこちらまで




コメント