ものづくりの原点は「糸」から始まる
- kojo masaaki

- 8 分前
- 読了時間: 4分
富士吉田の織物文化と、吉田うどんに隠された歴史
山梨県富士吉田市。
多くの人が真っ先に思い浮かべるのは富士山、そして「吉田うどん」ではないでしょうか。
しかし、この街にはもう一つ、日本を代表する文化があります。
それが織物です。
数年前、カーテンテキスタイルメーカーの担当者とともに富士吉田の織物工場を見学する機会がありました。
建築の仕事をしている私ですが、この日ほど「ものづくりの原点」を強く感じたことはありませんでした。

▽富士吉田は日本有数の織物の町
富士吉田の織物の歴史は古く、江戸時代までさかのぼります。
富士山の伏流水に恵まれ、標高700~800mという冷涼な気候は、絹や織物づくりに適していました。
江戸時代には「甲斐絹(かいき)」と呼ばれる高級絹織物の産地として全国に知られ、明治以降は機械化が進み、日本有数の織物産地へと発展します。
現在でも高級カーテン生地やインテリアファブリック、服地などを製造するメーカーが数多く集まり、「織物のまち」として国内外から高い評価を受けています。
街を歩くと、大きな工場だけではなく、染色、整経、製織、整理加工など、それぞれの工程を担う小さな工場が点在しています。
富士吉田の織物は、一社だけでは完成しません。
地域全体が一つの工場のように機能しているのです。
▽糸一本にも職人の技が宿る
最初に見学したのは染色工場でした。


東レ、帝人、旭化成などから届く糸を、お客様が求める色へ染め上げる工程です。
一見すると「色を付けるだけ」の仕事に見えます。
しかし実際はまったく違いました。
絹。
レーヨン。
ポリエステル。
素材が違えば、染色温度も圧力も時間も変わります。
さらに縦糸と横糸が異なる素材の場合、完成した生地が同じ色に見えるよう調整する必要があります。
最初はビーカーによる試験染色。
そこから何度も微調整を重ね、最後は長年培った職人の経験と感覚で色を決めていくそうです。
機械では再現できない世界が、今も残っています。
▽巨大な織機が生み出す一枚の布
染色された糸は、小さなボビンに巻き替えられ、さらに巨大なドラムへと整経されます。
その姿は圧巻でした。
人の力では持ち上げることもできないほど大きな糸巻きを、フォークリフトで織機へとセットします。
そこからジャカード織機が動き始めます。
高速で上下する無数の糸。
規則正しく響く機械音。
一本一本の糸が交差し、美しい模様を持つ一枚の布へと変わっていきます。
目の前で生地が織り上がっていく様子は、まるで命が吹き込まれていくようでした。
▽パンチカードは職人たちの「設計図」
現在ではコンピューター制御が主流になりましたが、当時見学した工場には、模様を記録したパンチカードも大切に保管されていました。



建築でいえば設計図。
家具でいえば原寸図。
織物では、このパンチカードこそが企業の財産です。
長年積み重ねてきた柄のデータは、その会社だけの技術であり、歴史そのものでもあります。
建築も織物も、ものづくりの本質は同じなのだと感じました。
▽吉田うどんが生まれた理由

富士吉田を訪れたら、やはり外せないのが「吉田うどん」です。
太く、硬く、しっかりとしたコシ。
初めて食べると驚くほど力強いうどんです。
このうどんが生まれた背景には、織物産業が深く関わっています。
富士吉田では、多くの女性が機織りに従事していました。
家事に時間をかけられないため、家に残る男性たちが短時間で作れ、腹持ちの良い昼食として考えたのが吉田うどんだったと言われています。
また、富士吉田は標高が高く稲作に適さない地域であったため、小麦文化が発達しました。
塩を効かせた力強い生地と噛み応えのある麺は、織物産業を支える人々のエネルギー源でもあったのです。
今では山梨を代表する郷土料理ですが、その一杯には、この街の産業と暮らしの歴史が詰まっています。
▽建築も織物も「ものづくり」の本質は同じ


私は建築の仕事をしています。
しかし、今回の工場見学を通して強く感じたことがあります。
一本の糸を大切にすること。
一枚の布を丁寧に織り上げること。
その積み重ねが、美しい製品を生み出します。
建築も同じです。
一本の柱。
一枚の床材。
一つの納まり。
見えなくなる部分まで丁寧につくることで、長く愛される住まいになります。
便利な時代だからこそ、人の手でしか生み出せない価値があります。
富士吉田の織物は、そのことを改めて教えてくれました。
ものづくりの原点は、機械ではありません。
人の技術と、積み重ねてきた時間なのだと思います。
参考資料・出典
・富士吉田市公式ホームページ「郡内織物・織物産業の歴史」
・山梨県郡内織物協同組合
・経済産業省「地域資源活用事例」
・農林水産省「うちの郷土料理 山梨県 吉田うどん」
・文化庁「日本遺産 星降る中部高地の縄文世界・富士山信仰関連資料」



コメント