暮らしを再設計する リノベーションのこれから|第8回
更新日:9月3日
水害・地震に備えるリノベーション
災害から暮らしを守る住まいづくり

はじめに、2026年7月28日に発生した「令和8年熊本地震」、および2026年8月13日に千葉県で発生した記録的豪雨により被災された皆様に、心よりお見舞い申し上げます。
住まいを失われた方、不自由な生活を余儀なくされている方、そして復旧・復興に尽力されている多くの皆様が、一日も早く穏やかな日常を取り戻されることを願っております。
今回の地震は、7月28日16時27分頃、熊本県熊本地方の深さ16kmを震源として発生したマグニチュード7.1の地震で、熊本県宇城市と氷川町では震度7が観測されました。
気象庁は一連の地震活動を「令和8年熊本地震」と命名しています。
8月8日10時までに震度1以上を観測した地震は572回に達し、気象庁は地震活動について、発生数は緩やかに減少しながらも依然として活発な状態が続いているとしています。
さらに、8月9日7時30分時点でも熊本県内3自治体で約34,800戸の断水が続いていました。
一方、8月13日に千葉県で発生した記録的な豪雨では、短時間に非常に強い雨が集中し、都市部を中心に内水氾濫や道路冠水、住宅の浸水被害が相次ぎました。排水能力を超える雨量により、低地やアンダーパス周辺では急激な水位上昇が発生し、避難や移動に支障が出る状況も確認されています。
地震と豪雨は性質が異なりますが、どちらも住宅の機能を一気に奪うという点では共通しています。
災害による住宅被害は、建物が壊れることだけではありません。
水が出ない電気が使えないトイレが使えない玄関が開かない家具が倒れて避難できない設備が浸水して生活できない
建物が残っていても、そこで生活を続けられなくなることがあります。
だからこそ、これからのリノベーションでは、
災害で壊れにくい住まい
だけではなく、
災害のあとも暮らしをつなげる住まい
という視点が必要だと考えます。
▽まず「この土地で何が起こり得るか」を知る
防災リノベーションで最初に行うべきことは、補強材や防災設備を選ぶことではありません。
その建物が建つ場所に、どのような災害リスクがあるのかを確認することです。
地震洪水内水氾濫高潮津波土砂災害液状化
場所によって想定すべき災害は異なります。
特に今回の千葉の豪雨のように、短時間で排水能力を超える雨が降るケースでは、従来の「河川氾濫中心の想定」だけでは不十分で、都市型水害(内水氾濫)への備えが重要になります。
国土交通省のハザードマップポータルサイトでは、洪水、内水氾濫、高潮、津波などの浸水想定区域と浸水深、土砂災害警戒区域、土地の成り立ちなどを地図上で確認できます。内閣府も、住宅周辺の災害リスクを把握したうえで備えることの重要性を示しています。
例えば同じ住宅でも、
河川沿いの低地海岸付近崖や急傾斜地の近く埋立地古い市街地
では、優先する対策が変わります。
全国どこでも同じ防災仕様を当てはめるのではなく、
土地のリスクを読み、それに合わせて住まいを整える。
これは地域性を考えるリノベーションにもつながります。
▽「災害を防ぐ家」ではなく「被害を減らす家」
自然災害を住宅だけで完全に防ぐことはできません。
想定を超える地震や豪雨が発生する可能性があります。
だから防災設計では、
災害そのものを防ぐ被害を小さくする逃げられるようにする生活機能を残す復旧しやすくする
という考え方が重要になります。
これを「レジリエンス」という言葉で表現することがあります。
強い家というと、びくともしない建物を想像します。
しかし実際には、
被害を受けても人命を守り、必要な部分を直し、できるだけ早く生活へ戻れること
も住宅の強さです。
▽地震対策は「倒壊しない」だけではない
第7回では、建物そのものの耐震性について取り上げました。
耐震診断耐力壁接合金物基礎屋根の重量
など、構造的な対策は地震対策の基本です。
しかし、建物が倒壊しなかったとしても、室内で家具や家電が転倒すれば、けがや避難障害につながります。
内閣府は、過去の大地震で負傷した人の原因について、約30~50%が家具類の転倒・落下・移動によるものだったと紹介しています。
リノベーションでは、家具転倒防止を後付けの防災用品だけで考えず、建築工事の段階から準備できます。
例えば壁の下地へ構造用合板を入れ、家具を固定できる場所をつくる。大型収納を壁へ固定する。造作家具そのものを建築へ固定する。吊戸棚や収納扉に、地震時の開放防止を考える。ベッドの周囲には、高い家具を置かない。玄関や廊下など避難経路へ倒れる家具を配置しない。
こうした小さな設計が、災害時には大きな違いになります。
▽オーダー家具も防災設備になる
家具を建築の一部として考えることには、防災上の利点があります。
床から天井までの収納を壁下地へ固定する。背の高い家具を独立して置かない。地震時に収納物が飛び出しにくい扉や金物を選ぶ。非常用品を玄関付近へ収納する。家具によって避難動線を塞がない。
つまり、オーダー家具は収納量やデザインだけではなく、
地震時に動かない家具
として設計できます。
▽玄関が開かなければ避難できない
大きな地震では、建物やドア枠が変形し、玄関扉が開きにくくなることがあります。
また豪雨時には、外部の水圧や土砂の影響で扉が重くなり、避難が遅れるケースもあります。
過去の国土交通省の防災・レジリエンス性向上改修の例でも、地震時の避難動線を確保する工事として、変形に対応する耐震ドアへの交換が挙げられています。
玄関だけでなく、
勝手口掃き出し窓庭への出口
など、複数の避難経路を考えることも有効です。
ただし、防犯、防火、構造との関係があります。
単純に出入口を増やせばよいわけではありません。
日常の動線と避難動線を重ねて考えます。
▽水害は「水が来る高さ」から考える
水害対策では、
水が来るか、来ないか
だけでは十分ではありません。
どの程度の浸水深が想定されているのかを見る必要があります。
特に千葉の豪雨のような都市型水害では、短時間で一気に水位が上がるため、想定浸水深だけでなく「到達速度」も重要になります。
ハザードマップでは、洪水、内水氾濫、高潮、津波などによる浸水想定と浸水深を確認できます。
そのうえで、
床の高さコンセントの高さ分電盤の位置給湯器エアコン室外機蓄電池重要な収納
などの配置を考えます。
水害対策とは、単純に水を完全に入れないことだけではありません。
水が来る可能性を前提として、壊れて困るものをできるだけ高い位置へ逃がす。
これも有効な考え方です。
▽電気設備を低い場所に集中させない
浸水時に電気設備が被害を受けると、建物そのものが使えても生活機能を失います。
国土交通省と経済産業省は、浸水被害を踏まえ「建築物における電気設備の浸水対策ガイドライン」を策定し、浸水リスクの低い場所への電気設備の配置、設備の嵩上げ、防水区画、止水処理などを対策として示しています。
住宅でも考え方は同じです。
分電盤を想定浸水高さより上へ配置する。蓄電池を地面に直接設置しない。エアコン室外機や給湯設備の設置高さを検討する。床下へ重要な電気設備を集中させない。コンセント位置を用途に応じて高くする。
特に豪雨被害が都市部で増えている現在、電気設備の配置は防災性能に直結します。
▽止水板だけで水害を防げるわけではない
玄関や開口部へ止水板を設ける方法があります。
しかし、千葉の豪雨のように短時間で水位が上昇する場合、設置が間に合わないケースや、想定以上の水圧で機能が制限されるケースもあります。
止水板を設ければ安心というのではなく、
どこから水が入る可能性があるのか
を建物全体で確認します。
さらに、想定を超える水位では止水設備だけで対応できない場合があります。
水が来たら建物で戦い続ける、という設計には限界があります。
避難すべき時には避難することが大前提です。
▽下水の逆流も考える
大雨時には、道路から住宅へ水が流れ込むだけでなく、下水側から排水管を通して水が逆流する可能性があります。
そのため、立地や排水条件によっては、
逆流防止弁汚水桝排水経路
を確認します。
トイレや浴室など低い位置にある排水設備は、水害時の弱点になる場合があります。
▽地下室は特に慎重に考える
地下室や半地下の住宅は、水害時に注意が必要です。
短時間の豪雨でも一気に水が流入する可能性があり、避難が遅れると危険性が高まります。
地下室へ、
寝室音楽室仕事部屋
などを設ける場合には、
浸水リスク避難経路電気設備排水設備外部からの水の入り方
を確認します。
止水設備があっても、それを前提に避難を遅らせてはいけません。
地下空間では特に、早期避難を優先します。
▽水に濡れたら「交換できる」つくり方
水害対策には、もう一つ重要な考え方があります。
水が入った後、どう直すか
です。
床巾木石膏ボード断熱材家具
などは、浸水後に交換が必要になる場合があります。
そこで浸水リスクが高い場所では、
下部だけ交換しやすい壁仕上げ取り外しやすい巾木点検できる床下交換可能な造作家具配線や配管を追いやすい構造
を考えることができます。
一度も壊れない家を目指すのではなく、
壊れた時に、小さな範囲で直せる家
という考え方です。
▽1階に何を置くかを考える
洪水や豪雨による浸水リスクがある地域では、1階の使い方そのものを検討する価値があります。
重要書類高価な家電防災備蓄仕事のデータ思い出の品
を床に近い位置へ保管しない。
可能であれば、寝室や重要設備をより高い階へ配置する。
ただし、これは避難をしなくてよいという意味ではありません。
▽停電しても最低限暮らせるか
災害時には、地震だけでなく豪雨でも停電が発生します。
太陽光発電蓄電池V2H非常用電源
などを検討することがあります。
停電時に、
どのコンセントが使えるのか冷蔵庫は使えるのか照明はどこまで点くのか給湯設備は動くのか通信機器を充電できるのか
を事前に確認します。
▽断水時の「生活用水」も考える
地震でも豪雨でも、断水は発生します。
水が止まると生活の多くが影響を受けます。
固定式の貯水タンクや、貯湯水を生活用水として活用できる給湯設備なども選択肢になります。
▽備蓄は「どこへ置くか」まで設計する
非常用持ち出し袋は、
玄関寝室避難動線の途中
など、取り出しやすい場所へ置きます。
▽まとめ
地震や水害に強い住まいとは、絶対に壊れない家ではありません。
災害リスクを知り、被害をできるだけ小さくし、安全に避難でき、生活機能をできるだけ残し、被害を受けた後も直しやすい家です。
今回の令和8年熊本地震、そして千葉の記録的豪雨は、災害が「想定外」ではなく「日常的に起こり得るもの」になっていることを改めて示しました。
家が残ること。命が守られること。そして、その家で再び暮らせること。
同じように見えて、これは三つの異なる課題です。
リノベーションという大きな工事を行うのであれば、仕上材を新しくするだけではなく、
もし災害が起きたら、この家はどうなるのか
を一度考えてみる。
それも、これからの暮らしを再設計するうえで欠かせない視点だと思います。
次回は、
「リノベーションの資金計画|工事費だけを見てはいけない理由」
をテーマに、工事費、設計費、追加工事、仮住まい、ローン、予備費など、リノベーションに必要なお金について整理します。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
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参考資料
気象庁「令和8年熊本地震 ポータルサイト」最終更新:2026年8月8日参照日:2026年8月10日。
国土交通省「ハザードマップポータルサイトを活用して災害に備えよう」2025年6月5日参照日:2026年8月10日。
内閣府「地震に備える」参照日:2026年8月10日。
国土交通省・経済産業省「建築物における電気設備の浸水対策ガイドライン」公表:2020年6月19日参照日:2026年8月10日。
国土交通省「長期優良住宅化リフォーム推進事業 防災性・レジリエンス性向上改修工事」令和7年度資料参照日:2026年




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