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オール電化は終わったのか——ガスと比べて見えた、これからの住宅エネルギー

オール電化とガス設備の比較
オール電化とガス設備の比較

「オール電化」という言葉を、久しく耳にしなくなりました。

2000年代には、IHクッキングヒーターとエコキュートを組み合わせた住宅が、先進的で清潔、安全な暮らしとして盛んに紹介されました。東京電力管内では、2010年8月にオール電化住宅が累計80万戸に達しています。

ところが現在は、太陽光発電、蓄電池、V2H、ZEH、HEMSなど、住宅エネルギーを表す言葉が増え、「オール電化」という呼び方だけが少し古く見えるようになりました。

しかし、オール電化を支える技術そのものが廃れたわけではありません。家庭用ヒートポンプ給湯機「エコキュート」は、2025年3月に国内累計出荷台数1,000万台を突破しました。

終わったのはオール電化という技術ではなく、「何でも電気にすれば新しくて得になる」という単純な考え方なのではないでしょうか。

本当に比較すべきなのは、コンロより給湯です

電気とガスの話になると、IHとガスコンロの使い勝手が注目されがちです。

しかし、環境負荷や光熱費への影響が大きいのは、むしろ給湯です。

環境省によると、2023年度の家庭からのCO₂排出量は、用途別では照明・家電製品などが46.3%、給湯が24.0%、暖房が19.5%、調理が4.5%でした。

この数字を見ると、「IHとガスコンロのどちらがよいか」だけで住宅のエネルギーを論じるのは、少し焦点がずれていることが分かります。

まず検討したいのは、お湯をどのようにつくり、貯め、使うかということです。

エコキュート、エコジョーズ、ハイブリッド給湯器の違い

観点

エコキュート・オール電化

ガス・エコジョーズ

ハイブリッド給湯

仕組み

空気の熱を電気でくみ上げ、タンクに貯湯します

ガスを燃焼させ、排熱も回収して瞬間給湯します

ヒートポンプを主体とし、ガスで補助します

得意な住宅

太陽光発電があり、設置スペースを確保できる住宅

狭小地や集合住宅、湯切れを避けたい住宅

使用湯量が多い世帯、床暖房を使う住宅

設置スペース

貯湯タンク、屋外機、基礎、排水設備が必要です

壁掛け機器が中心で比較的コンパクトです

タンク、ヒートポンプ、ガス機器が必要です

初期費用

比較的高くなります

機器交換だけなら抑えやすい傾向です

一般的に最も高くなりやすい方式です

環境性

電源構成や運転時間に左右されますが、ヒートポンプの効率に優れます

高効率ですが、使用時に都市ガスを燃焼します

電気とガスの長所を組み合わせます

停電時

基本的に沸き上げできませんが、タンクの水を生活用水として使える機種があります

電池式コンロは使える場合がありますが、100V電源を使う給湯器は停止します

電源がなければ通常運転は困難です

注意点

湯切れ、低周波音、塩害、凍結、浸水などへの配慮が必要です

排気、ガス配管、ドレン排水への配慮が必要です

設備が複雑になり、保守対象も増えます

エコジョーズは、従来型ガス給湯器では捨てていた排熱を利用し、給湯熱効率をおおむね80%程度から約95%まで高める方式です。

一方、エコキュートは、電気ヒーターで直接水を温めるのではなく、空気中の熱をヒートポンプで移動させます。

同じ「電気給湯」でも、旧式の電気温水器とはエネルギー効率が大きく異なります。

古いオール電化住宅を評価するときは、現在使われている機器が電気温水器なのか、蓄熱暖房機なのか、エコキュートなのかを分けて考える必要があります。

「オール電化だから電気を大量に使う」と一括りにすることはできません。

オール電化は本当に環境にやさしいのでしょうか

エコキュートには、住宅内で燃焼せず、ヒートポンプによって少ない電力から多くの熱を得られるという利点があります。

ただし、電気をつくる段階まで考えれば、CO₂排出量がゼロになるわけではありません。

2025年に公表された業界試算では、一定の条件下で、エコキュートの使用時CO₂排出量は年間約588kg、従来型ガス給湯器は約966kgとされました。

エコキュートの排出量は、従来型ガス給湯器の約60%という計算です。

ただし、これは従来型ガス給湯器との比較であり、高効率型のエコジョーズとの直接比較ではありません。

また、機器の製造や廃棄までを含めた、ライフサイクル全体の数字でもありません。

そのため、「電気なら無条件に環境負荷が小さい」と結論づけることはできません。

政府の第7次エネルギー基本計画では、2040年度の電源構成として、再生可能エネルギー40~50%、原子力約20%、火力30~40%という見通しが示されています。

電源の脱炭素化が進めば、住宅設備を更新しなくても、電気を利用する設備の運転時CO₂排出量は下がっていく可能性があります。

一方、2040年度にも火力発電は残る見通しです。「電化=ゼロカーボン」という説明は正確ではありません。

太陽光発電の余剰電力を使い、昼間にお湯を沸かす「おひさまエコキュート」なども登場しています。

これからは使用する電気の量だけでなく、電気を使う時間まで設計することが重要になります。

設置費用は、機器本体だけでは決まりません

2026年時点における、全国一律のオール電化改修相場は確認できません。

地域、建物の配線、分電盤、ガス設備の撤去、基礎工事などによる差が大きいためです。

公開されている参考値として、東京電力エナジーパートナーは2022年時点で、ガス給湯器からエコキュートへの交換を50万~100万円、ガスコンロからIHへの交換を20万~40万円、全体では70万~140万円程度としています。

これは2022年時点の目安ですので、2026年の見積金額としてそのまま使うべきではありません。

現在の参考としては、パナソニックが公開している2019~2025年の施工実績で、370Lエコキュートの交換費用は50万~60万円の価格帯が最も多く、全体の42%を占めています。

ガス給湯器については、東京ガスが2026年7月時点で、壁掛け型エコジョーズの交換費用を、おおむね15万7,000円~21万8,000円程度と案内しています。

実際の費用を左右するのは、次のような付帯工事です。

  • IH専用200V回路の新設

  • 契約容量、引込線、分電盤の変更

  • エコキュート用コンクリート基礎

  • 給水・給湯・追いだき配管の延長

  • 排水経路とドレン処理

  • 既存ガス機器、ガス配管の撤去または閉栓

  • 搬入経路、隣地との離隔、騒音対策

  • 外構や植栽、舗装の撤去・復旧

積算資料の関連工種を照合しても、オール電化への改修は機器代だけでは完結しません。

電気設備、給排水設備、基礎・外構工事を横断して見積もる必要があります。

既存住宅では、機器の価格差以上に「どこへ置き、どの経路で配線・配管するか」が総額を左右します。

省スペース性ではガス設備が有利です

両者は、設置に必要なスペースにも大きな違いがあります。

現行の370Lエコキュートの一例では、貯湯ユニットが高さ1,810mm、幅600mm、奥行680mmです。

これとは別に、幅799mm程度のヒートポンプユニットが必要になります。

370Lの水だけでも、重量は約370kgです。

満水時には、機器を含めて数百kgの荷重が基礎にかかります。さらに、点検や将来の交換に必要な作業空間も確保しなければなりません。

一方、壁掛けガス給湯器の一例は、高さ600mm、幅470mm、奥行240mm、質量約23kgです。

狭小地や集合住宅では、この差を無視できません。

エコキュートには薄型もありますが、奥行が薄くなる代わりに横幅が大きくなる傾向があります。

敷地図だけで判断せず、搬入経路、点検スペース、隣家の窓、寝室との距離まで確認することが大切です。

湘南のような沿岸地域では、耐塩害・耐重塩害仕様の要否、潮風の向き、基板や熱交換器の腐食対策も検討項目になります。

浸水想定区域では、単に基礎を設けるだけではなく、想定浸水深に対して機器をどこまで上げるかも考えたいところです。

災害時は「電気かガスか」よりバックアップ計画が重要です

オール電化住宅は、停電すると調理、給湯、冷暖房が同時に止まりやすいという弱点があります。

ただし、太陽光発電の自立運転、蓄電池、V2H、ポータブル電源があれば状況は変わります。

ガス設備のある住宅も万能ではありません。

電池式のガスコンロは停電中も使える場合がありますが、100V電源を必要とするガス給湯器は、基本的に運転できません。

大地震では、ガスの供給自体が停止する可能性もあります。

エコキュートは、タンク内の水を非常時の生活用水として取り出せる機種があります。

ただし、そのまま飲用することはできません。また、高温のお湯が出る可能性があるため、やけどにも注意が必要です。

防災性を「電気とガスの両方を契約しているか」だけで評価するのは十分ではありません。

カセットコンロ、飲料水、生活用水、蓄電池、太陽光発電の自立運転、給湯タンクなどを組み合わせ、災害時に何日間、何を維持したいのかを先に決める必要があります。

住宅条件別に考える、これからの選択肢

1.新築で太陽光発電を十分に設置できる住宅

オール電化と、昼間沸き上げ型エコキュートの相性がよい住宅です。

HEMSや蓄電池、V2Hまで組み合わせれば、電気料金が安い時間に電気を使う住宅から、自宅でつくった電気を自宅で使う住宅へ移行できます。

2.敷地に余裕のない既存住宅

無理にエコキュートを設置せず、エコジョーズを継続する選択が合理的な場合があります。

調理設備だけをIHへ変更する、あるいはガスコンロを残したまま高効率給湯器へ交換するなど、部分的な更新でも構いません。

3.家族が多く、同時に大量のお湯を使う住宅

ヒートポンプを基本としながら、湯量が増えたときにガスで補うハイブリッド給湯器が候補になります。

床暖房との組み合わせにも向いていますが、初期費用、設置スペース、保守対象が増える点には注意が必要です。

4.古い電気温水器や蓄熱暖房機が残っている住宅

「オール電化をやめるか」を考える前に、旧式の抵抗加熱機器を、高効率のヒートポンプ機器へ更新する効果を検討したいところです。

古い電気温水器や蓄熱暖房機の消費電力を、そのまま現在のエコキュートの評価に当てはめることはできません。

5.防災を優先する住宅

熱源の種類よりも、太陽光発電、蓄電池、V2H、カセットコンロ、生活用水を組み合わせた冗長性を重視します。

どのエネルギーを契約しているかではなく、停電、断水、ガス供給停止のそれぞれで、何が使えるかを一覧にすると判断しやすくなります。

6.集合住宅

専用の屋外スペース、構造荷重、排水経路、管理規約などの制約があるため、ガス給湯器の方が現実的なケースが多くなります。

エコキュートへの変更を検討する場合は、機器性能より先に、共用部分の扱いと管理規約を確認する必要があります。

2026年の補助制度

2026年8月21日時点の「給湯省エネ2026事業」では、エコキュートは基本額7万円に性能加算3万円が設けられ、1台当たり最大10万円が補助されます。

ハイブリッド給湯機は最大12万円、家庭用燃料電池は17万円です。

電気蓄熱暖房機の撤去には1台4万円、電気温水器の撤去には1台2万円の加算もあります。

2026年8月21日午前0時時点の予算消化率は38%でした。

申請は、消費者が直接行うのではなく、登録事業者を通じて行います。

制度は予算上限に達すると終了するため、実際に利用する際には、その時点の受付状況を再確認する必要があります。

エネルギー設備は、思想ではなく組み合わせで選びます

これからの住宅エネルギーは、「電気かガスか」という二者択一だけでは語りきれません。

最初に断熱や節湯によって、住宅で必要とするエネルギーを減らします。

次に、効率のよい設備を選びます。

そのうえで、太陽光発電による自家発電、昼間の沸き上げ、蓄電池による電力利用時間の調整を考え、最後に災害時のバックアップを用意します。

この順番で考えれば、オール電化が適している住宅もあれば、ガスを残した方が合理的な住宅もあります。

電気とガスを組み合わせた方がよい住宅もあるでしょう。

オール電化は、かつての流行商品ではなくなりました。

だからこそ、流行に左右されず、敷地条件、家族構成、建物性能、電源構成、災害リスクを踏まえて、冷静に選べる設備になったともいえます。

住まいのエネルギーに、すべての家庭へ共通する正解はありません。

あるのは、その家の暮らし方に合い、無理なく使い続けられ、将来も更新しやすい仕組みです。

電気かガスかを決めることが目的ではありません。

これからの暮らしに、どのようなエネルギーの組み合わせが必要なのかを考えることが、住宅設計やリフォームに求められています。


「制度・補助金・価格情報」は2026年8月21日現在です。

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