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暮らしを再設計するリノベーションのこれから|第3回

間取りより先に考えたい「どう暮らしたいか」


間取りより先に考えたい「どう暮らしたいか」
間取りより先に考えたい「どう暮らしたいか」

リノベーションの相談では、最初に間取りの話になることが少なくありません。

壁を取り払って広いLDKにしたい対面キッチンに変えたい収納を増やしたい個室を一つ減らしたい洗面所を広くしたい

どれも大切な希望です。

しかし、その希望をそのまま図面に置き換えるだけでは、暮らしやすい住まいになるとは限りません。

なぜ広いLDKが必要なのかなぜ対面キッチンにしたいのか何をどこに収納したいのか誰が、いつ、どこで過ごすのか現在の不便は、本当に間取りだけが原因なのか

そこまで考えて、初めて計画の出発点が見えてきます。

リノベーションで最初に考えるべきなのは、部屋の数や広さではありません。

そこで、どのように暮らしたいのか。

暮らしの姿を整理した結果として、必要な間取りが決まります。


▽「何部屋ほしいか」より「何をしたいか」


住宅の間取りは、一般的に「2LDK」「3LDK」といった部屋数で表されます。

物件を比較するには便利ですが、この表記だけでは生活の中身までは分かりません。

同じ3LDKでも、

子育て中の家族在宅勤務をする夫婦一人暮らしで趣味の道具が多い人親との同居を考えている世帯子どもが独立した後の夫婦

では、必要な空間がまったく異なります。

例えば「書斎がほしい」という希望があったとします。

一日中オンライン会議をするための独立した仕事部屋なのか週に数回、短時間だけパソコンを使う場所なのか仕事以外に読書や趣味にも使う部屋なのか

使い方によって必要な広さ、遮音性、照明、収納、換気、背景の見え方まで変わります。

国土交通省の令和6年度テレワーク人口実態調査では、雇用型就業者のうちテレワーカーの割合は全国で24.6%でした。さらに令和7年度調査では、コロナ禍後に減少していたテレワーク実施率が増加に転じ、安定基調で推移したとされています。住まいの中に仕事の場所をどう組み込むかは、一時的な課題ではなくなっています。

書斎という名前の部屋をつくることよりも、そこでどのような行為をするかを確認する方が重要です。

これは、子ども部屋や家事室、収納、客間にも共通します。

部屋の名前から考えるのではなく、行為から考える。

それが、暮らしから間取りをつくる基本です。


▽一日の動きを書き出してみる


暮らし方を考えるときは、理想的な休日だけでなく、普通の平日を思い浮かべることが大切です。

朝、誰が最初に起きるのか洗面所は何人で使うのか朝食はどこで食べるのか洗濯物はどこで洗い、干し、畳み、収納するのか帰宅後、鞄や上着をどこに置くのか夕食後は家族で過ごすのか、それぞれ別に過ごすのか就寝時間は同じなのか

生活の動きを追っていくと、現在の不便の原因が見えてきます。

洗面所が狭いと思っていても、実際にはタオルや下着の収納場所が離れていることが原因かもしれません。

キッチンが使いにくいと思っていても、調理台の広さではなく、冷蔵庫、食器棚、ゴミ箱の配置に問題がある場合があります。

玄関が片付かない原因が、収納量の不足ではなく、帰宅後に物を置く場所が生活動線上にないこともあります。

間取り図だけを眺めても、こうした問題は見つかりません。

人の動きと物の移動を一緒に考える必要があります。


▽家事動線は短ければよいのか


住宅の広告では「家事動線の短い間取り」がよく紹介されます。

確かに、無駄な移動を減らすことは重要です。

しかし、動線は短ければ必ず暮らしやすいわけではありません。

洗濯機、物干し、収納を近づけても、その途中を家族が頻繁に通れば、家事の邪魔になることがあります。

キッチンと洗面所を近づけても、出入口が集中して人がぶつかるようでは使いにくくなります。

玄関からキッチンまでを短くしても、来客の視線が生活空間へ直接入る計画では落ち着きません。

必要なのは、距離だけでなく、

誰の動線なのかどの時間帯に使うのか別の人の動線と重ならないか物を持って移動するのか扉を開けたまま使うのか

まで考えることです。

図面上では数十センチの違いでも、毎日繰り返す動作であれば、暮らしやすさに大きく影響します。


▽家族が集まる場所と、一人になる場所


近年の住宅では、広いLDKを中心に家族が一つの空間で過ごす間取りが多く見られます。

家族の気配を感じられることは大きな利点です。

一方で、家族全員が常に同じ場所にいたいとは限りません。

テレビを見たい人本を読みたい人オンライン会議をする人宿題をする子ども静かに休みたい人

それぞれの行為が同じ空間に集まると、音や視線がぶつかります。

開放的な間取りをつくるほど、一人になれる小さな場所が重要になります。

完全な個室でなくても、

窓辺のベンチ階段下の小さな机本棚で緩やかに仕切った場所引戸で開閉できる畳スペースダイニングから少し離れたカウンター

など、家族とつながりながら距離を取れる場所を設けることができます。

家族が集まる場所と、一人で過ごす場所は対立するものではありません。

両方を用意することで、家族が無理なく同じ住まいで過ごせます。


▽開放することだけがリノベーションではない


リノベーションでは、間仕切壁を撤去して空間を広くする案が注目されがちです。

しかし、壁をなくすことには注意点もあります。

冷暖房する範囲が広がる音が伝わりやすくなる収納や家具を置く壁が減るにおいが広がりやすくなる生活時間の違いが気になりやすくなる

特に、在宅勤務、子育て、介護など、複数の生活行為が住宅内で同時に行われる場合、適度に空間を区切る必要があります。

固定された壁だけが仕切りではありません。

引戸可動間仕切りカーテン家具床の段差天井の高さ素材や照明の切り替え

によって、空間を緩やかに分けることもできます。

必要な時には一体で使い、別々に過ごしたい時には分けられる。

将来の変化に対応しやすい、可変性のある間取りも一つの方法です。


▽収納は量ではなく、物の居場所を決める


収納の相談では、「できるだけ多く収納をつくりたい」という要望をよく伺います。

しかし、収納は大きければよいわけではありません。

奥行きが深すぎる収納は、奥に入れた物が見えなくなります。

使う場所から離れた収納は、片付けが面倒になります。

一か所にまとめすぎると、家族の動線が集中します。

収納計画では、まず持ち物を次のように整理します。

毎日使う物季節ごとに使う物年に数回使う物思い出として残す物今後処分できる物将来増える可能性がある物

さらに、その物をどこで使い、誰が出し入れするかを考えます。

玄関で使う物は玄関近くへ洗面所で使う物は洗面所へ掃除道具は掃除する場所の近くへ書類は確認や記入をする場所へ

物の居場所を決めることで、必要な収納量と位置が見えてきます。

収納を増やす前に、生活と物の関係を整理することが必要です。


▽家具を後から考えない


間取りを決めてから家具を配置すると、意外な問題が起こります。

ソファを置いたら通路が狭くなったダイニングテーブルを置くと引戸が開かないテレビを置ける壁がない収納扉と家具がぶつかるコンセントが家具の裏に隠れる

これらは、図面上で部屋の広さだけを確認していると起こりやすい問題です。

家具は、空間の使い方を決める重要な要素です。

ダイニングテーブルの大きさ椅子を引くための寸法ソファとテレビの距離ベッド周囲の通路収納扉を開けるための空間

まで考えたうえで、壁や開口部の位置を決めます。

オーダー家具を採用する場合は、収納を空間に合わせるだけでなく、生活の動作に合わせて設計できます。

食事、仕事、勉強、収納など、複数の役割を一つの家具に持たせることもできます。

間取りと家具を別々に考えないことが、限られた面積を生かす方法です。


▽「現在の暮らし」だけで決めない


リノベーションは、完成した年だけ使うものではありません。

10年、20年と暮らし続ける間に、生活は変わります。

子どもが成長する子どもが独立する在宅勤務が始まる親との同居や介護が必要になる身体の動きが変わる趣味や持ち物が変わる

2026年度から2035年度までを計画期間とする新たな住生活基本計画では、世帯構成や居住ニーズの変化を踏まえ、必要な住宅を適時適切に確保できる循環型市場の形成や、既存住宅の本格的な活用が政策の方向として示されています。住宅には、一つの家族像だけを前提にせず、人生の変化に対応する視点が求められています。

将来を完全に予測することはできません。

それでも、

後から壁を設けられる下地を入れる二部屋に分けられる窓と扉の位置にする段差を減らす通路幅を確保する設備や家具を交換しやすくする一階だけでも生活が完結できるようにする

といった準備はできます。

最初からすべてを固定しすぎないことも、長く暮らせる住まいの条件です。


誰か一人のためだけの間取りにしない


住まいの計画では、打ち合わせに参加する人の意見が強く反映されがちです。

しかし、その家で暮らすのは一人だけではありません。

料理をする人片付けをする人子ども高齢の家族在宅勤務をする人来客将来介助をする人、される人

それぞれの立場から使い方を考える必要があります。

例えば、キッチンを主に使う人にとって便利でも、家族が手伝いにくい配置では、家事を一人に集中させることになります。

子ども部屋を完全に独立させれば静かになりますが、幼い時期には目が届きにくくなることがあります。

介助に必要な広さを確保しても、本人が落ち着けない空間では生活の質は高まりません。

誰か一人の動きだけを効率化するのではなく、家族全体の関係を考える。

これも、暮らしを再設計するということです。


▽理想の暮らしと、実際の暮らし


リノベーションを考えると、完成後の整った生活を想像します。

毎朝、広いキッチンで丁寧に朝食をつくるリビングには物を出さない休日は家族でダイニングを囲む書斎で静かに仕事をする

そのような理想を持つことは大切です。

しかし、計画には現在の生活も正直に反映させる必要があります。

脱いだ上着をすぐには片付けない買い物袋を床に置く食卓で仕事や宿題をする洗濯物を畳まずに一時置きする趣味の道具が増えていく

生活には、整った場面だけでなく、途中の状態があります。

住まいが常に完成写真のように保たれることは、ほぼありません。

その途中の状態を受け止められる場所をつくることが重要です。

一時置きの棚帰宅後の鞄置場洗濯物の仮置場充電する場所資源ごみをまとめる場所

こうした小さな場所が、実際の暮らしやすさを支えます。

生活を美化しすぎず、日常の少々だらしない部分まで設計する。

人間が毎日完璧に片付けるという前提より、よほど現実的です。


▽暮らしを考えるための質問


間取りを決める前に、次のようなことを家族で話してみると、必要な空間が見えやすくなります。

朝の過ごし方

何時に起きるのか洗面所やトイレが混雑するか朝食を一緒に食べるか出発までにどのような動きをするか

帰宅後の動き

上着、鞄、靴、郵便物をどこに置くか手洗いや着替えをどこでするか買い物した物をどこへ運ぶか

家での仕事や勉強

誰が、何時間使うかオンライン会議があるか音や背景への配慮が必要か家族と一緒の方がよいか、離れた方がよいか

家族の時間

どこに集まるか何をしながら過ごすか食事以外でもダイニングを使うか一人になりたい時はどこへ行くか

家事の方法

洗濯物をどこで干すか誰が料理や片付けをするかまとめて行うか、少しずつ行うか掃除道具をどこに置くか

将来の変化

子ども部屋はいつまで必要か親との同居の可能性はあるか一階だけで生活できるか身体の変化に対応できるか売却や賃貸の可能性はあるか

すべての答えを最初から決める必要はありません。

大切なのは、家族の中でも暮らし方に違いがあることを確認することです。


▽間取りは、暮らしを表した結果


良い間取りとは、珍しい形や流行の設備がある間取りではありません。

住む人の日常に無理がなく、変化にも対応できる間取りです。

広いLDKが必要な家もあれば、小さな居場所が複数ある方が暮らしやすい家もあります。

家族全員の個室が必要な場合もあれば、用途を限定しない共用スペースの方が役立つこともあります。

正解は、建物ごと、家族ごとに異なります。

だからこそ、最初から完成形を当てはめるのではなく、生活の話を聞きながら計画をつくる必要があります。

間取りを先に決めて、そこへ暮らしを押し込むのではありません。

どのように暮らしたいかを考え、その暮らしを支える形として、間取りをつくる。

それが、生活観から考えるリノベーションです。




リノベーションで間取りを考える前に必要なのは、現在の生活を見つめ直すことです。

誰が、どこで、何をしているのかどの動作に不便を感じているのか家族が一緒に過ごす時間と、一人で過ごす時間物を使う場所と片付ける場所現在だけでなく、将来どのように変化するのか

これらを整理すると、必要な部屋の数や広さ、動線、収納の位置が見えてきます。

間取りは、暮らしを決めるための枠ではありません。

暮らしを考えた結果として生まれるものです。

何畳の部屋をつくるかではなく、そこで何をしたいのか。

何部屋必要かではなく、家族がどのような距離で過ごしたいのか。

現在の不便を直すだけでなく、これからの変化をどこまで受け止められるのか。

そこまで考えることで、リノベーションは単なる間取り変更ではなく、暮らしの再設計になります。


次回は、

「リノベーションはいつやるべきか|年齢・築年数・家族の変化から考える」

をテーマに、工事を考え始める時期と判断の基準について掘り下げます。


参考資料

  • 国土交通省「住生活基本計画(全国計画)」参照日:2026年7月26日

  • 国土交通省「新たな『住生活基本計画(全国計画)』を閣議決定」2026年3月、参照日:2026年7月26日

  • 国土交通省「令和6年度テレワーク人口実態調査結果」参照日:2026年7月26日

  • 国土交通省「令和7年度テレワーク人口実態調査結果」参照日:2026年7月26日

  • 総務省統計局「令和5年住宅・土地統計調査」参照日:2026年7月26日

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