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暮らしを再設計するリノベーションのこれから|第2回

見た目を変えるだけではない「本当のリノベーション」


見た目を変えるだけではない「本当のリノベーション」
見た目を変えるだけではない「本当のリノベーション」

リノベーションという言葉から、どのような住まいを思い浮かべるでしょうか。

壁を取り払った広いリビング対面式のアイランドキッチンコンクリート現しの天井無垢材の床造作家具や間接照明のある空間

写真映えする美しい住まいは、確かにリノベーションの魅力の一つです。

しかし、内装を新しくし、間取りを大きく変えれば、それだけで本当のリノベーションになるのでしょうか。

私たちは、そうではないと考えています。

本当のリノベーションとは、古い建物を新しく見せることではありません。

今ある建物の状態を読み取り、そこで暮らす人の生活を見つめ直し、これから必要となる性能や役割を考え、建物と暮らしの関係を組み直すことです。

見た目の変化は、その結果として生まれるものです。


▽リノベーションは「壊すこと」から始まらない


リノベーションの計画では、最初から間仕切壁を撤去し、設備や内装をすべて新しくする案が示されることがあります。

確かに、すべてを解体すれば自由に計画しやすくなります。

しかし、既存建物には、長い時間をかけて残ってきたものがあります。

年月を重ねた柱や梁現在では手に入りにくい無垢材丁寧につくられた建具住まいの記憶が残る傷や色合いその土地の気候に合わせた窓や庇周辺の街並みと調和した外観

古いという理由だけで、それらをすべて撤去してしまえば、建物が持っていた価値まで失われます。

本当のリノベーションは、まず壊すのではなく、

何が残せるのか何を残すべきなのか何を変えなければならないのか

を考えることから始まります。

残すことにも設計が必要です。

すべてを新しくするより、既存部分を生かしながら新しい材料を納める方が、難しい場合もあります。

寸法が一定ではない壁傾きや不陸のある床現在の規格とは異なる建具後から増設された配線や配管

こうした既存建物特有の条件を読み解き、新旧をつなぐことも、リノベーション設計の重要な仕事です。


▽デザインの前に、建物の状態を知る


きれいな完成予想図があっても、既存建物の状態を把握できていなければ、計画は成立しません。

リノベーションでは、工事前に次のような項目を確認します。

建物の構造柱、梁、耐力壁の位置床や壁の傾き雨漏りや漏水の跡腐朽やシロアリ被害給排水管の材質と劣化電気容量と配線状況断熱材の有無結露やカビの発生状況過去の増築や改修履歴マンションの管理規約法規上の制限

表面だけを見ていると、工事が始まってから問題が見つかることがあります。

壁を解体したら配管が想定と違っていた床を剥がしたら下地が腐食していた間仕切壁と思っていた壁が構造上重要だった希望する設備を設置するには電気容量が不足していた

既存建物には、新築にはない不確定要素があります。

その不確定要素を完全になくすことはできません。

しかし、図面、現地調査、過去の工事記録、床下や天井裏の確認などを通して、できる限り事前に把握することはできます。

本当のリノベーションは、華やかな提案の前に、地味な調査を丁寧に行います。

残念ながら建物は、完成イメージ画像の熱意だけでは支えてくれません。


▽間取りを変える目的を考える


リノベーションでは、壁を取り払い、複数の部屋を一つの広い空間にする計画が好まれます。

しかし、広い空間にすること自体が目的になってはいけません。

なぜ壁を撤去するのか。

家族が集まる場所をつくるためなのかキッチンから子どもの様子を見るためなのか光や風を奥まで届けるためなのか介助しやすい動線を確保するためなのか家具の配置を自由にするためなのか

目的によって、必要な間取りは変わります。

現在は家族全員で広いリビングを使っていても、将来は個室が必要になるかもしれません。

子どもが独立した後、夫婦それぞれの居場所が必要になることもあります。

在宅勤務が増えれば、開放的な空間だけでなく、音や視線を遮る場所も求められます。

大きく開くことだけが正解ではありません。

開く場所と閉じる場所家族が集まる場所と一人になる場所固定する部分と将来変更できる部分

これらを整理することが、暮らしを再設計するということです。


▽性能を置き去りにしない


内装が新しくなっても、冬に寒く、夏に暑い家では、暮らしの質が高まったとはいえません。

見た目は美しくても、

窓から冷気が入る結露が発生する隣室や上下階の音が気になる床に大きな段差がある地震に対する不安が残る光熱費が高い

という問題が残ることがあります。

本当のリノベーションでは、意匠と同時に住宅性能を考えます。

耐震断熱気密省エネルギー遮音換気防水バリアフリー防犯

すべてを最高水準にする必要はありません。

予算や建物の条件に応じて、何を優先するかを決めることが大切です。

例えば、家全体を一度に断熱改修できない場合でも、日常的に長く過ごすリビングや寝室など、生活範囲を絞った部分断熱という方法があります。

国土交通省も、既存住宅の一部を断熱する部分断熱改修について、実証事業の結果や改修事例を公開しています。全体改修だけでなく、予算や生活に合わせて段階的に性能を高める考え方が示されています。

2026年には、国土交通省、環境省、経済産業省の連携による「住宅省エネ2026キャンペーン」が実施され、省エネリフォームも支援対象とされています。補助制度には対象工事や申請条件があるため、計画時点で最新情報を確認する必要があります。

性能向上は、完成写真には表れにくい部分です。

しかし、実際に暮らし始めてから感じる満足度には、大きな影響があります。


▽設備を交換するのではなく、生活を整理する


収納を増やしたいという相談を受けることがあります。

しかし、収納量だけを増やしても、使いやすくなるとは限りません。

何を収納するのかどこで使うのか誰が出し入れするのか使用頻度はどの程度か将来増える物、減る物は何か

これらを整理したうえで、収納の場所や寸法を決めます。

キッチンも同じです。

大きなキッチンを設置すれば、料理がしやすくなるとは限りません。

冷蔵庫から食材を出す洗う切る加熱する盛り付ける食卓へ運ぶ片付ける

一連の動きと、家族の過ごし方を考える必要があります。

洗面所、玄関、ワークスペース、子ども部屋、寝室も、設備や家具を置くだけでは完成しません。

人がどのように動き、どこで物を使い、どのような時間を過ごすのか。

生活の動作を設計に置き換えることが、リノベーションです。


▽オーダー家具も建築の一部として考える


既製品の家具は、工事後の空間に合わせて選ぶことが一般的です。

一方、オーダー家具は、建築と同時に計画できます。

壁の幅に合わせた収納梁や柱を避けた本棚キッチンと一体になったダイニングテーブルテレビ、配線、照明を納めた壁面家具身体の状態に合わせた洗面台将来取り外せる間仕切家具

建築と家具を別々に考えるのではなく、暮らしを支える一つの空間として計画します。

家具を置くための部屋をつくるのではなく、必要な家具を含めて部屋をつくる。

それによって、限られた面積でも、動線や収納を無駄なく整えることができます。

既存住宅では、柱や梁、配管スペースなどによって、既製品がきれいに納まらないこともあります。

そのような条件を欠点として隠すだけでなく、造作家具や素材の切り替えによって、空間の特徴として生かすこともできます。


▽完成時だけでなく、10年後を考える


リノベーションの完成直後は、どの家も新しく見えます。

重要なのは、5年後、10年後、20年後にどうなっているかです。

材料はどのように変化するのか設備は交換できるのか配管や配線を点検できるのか家族構成が変わった時に間取りを変更できるのか傷んだ部分だけを修理できるのか

完成時の美しさだけを優先し、設備や配管をすべて塞いでしまうと、将来の修繕が難しくなることがあります。

特殊な材料や廃番になりやすい製品だけで構成すると、一部の補修ができず、広い範囲を交換しなければならない場合もあります。

本当のリノベーションは、建物を完成させることだけでなく、維持し、直しながら使い続けることまで考えます。

そのためには、工事後の図面、仕様書、設備の品番、工事写真、点検や修繕の記録を残すことも重要です。

国土交通省は、新築時の図面、建築確認書類、点検結果、修繕・リフォーム記録などを「住宅履歴情報」として保存・蓄積し、その後の維持管理や売買に活用する考え方を示しています。

人間の記憶は頼りになりません。

数年後には「この壁の中に何か配管があった気がする」という、建築的にほぼ無価値な情報へ変わります。

だからこそ、記録を残す必要があります。


▽すべてを新しくしないという選択


新しい材料や設備には、新しいものならではの性能や使いやすさがあります。

一方、古い材料には、時間を重ねたものにしか出せない表情があります。

既存の柱を残す古い建具を補修して使う床材を部分的に張り替える思い出のある木材を家具として再利用する使える設備は残し、必要な部分だけを更新する

こうした選択は、単なる節約ではありません。

建物が持っていた時間や記憶を、次の暮らしへつなぐ方法です。

ただし、何でも残せばよいわけではありません。

安全性に問題がある部分著しく劣化した部分現在の生活に合わない部分将来の維持管理を妨げる部分

これらは適切に更新する必要があります。

残すことと変えることの境界を見極める。

そこに、リノベーション設計の判断があります。


▽本当のリノベーションに必要な五つの視点


本当のリノベーションを考えるうえで、私たちは次の五つの視点が必要だと考えています。

1.建物を知る

構造、劣化、設備、法規、改修履歴を調べます。

2.生活を知る

現在の不満だけでなく、日々の動作や将来の変化を整理します。

3.残すものを決める

建物の価値、記憶、材料、予算を踏まえて、残す部分を選びます。

4.性能を整える

耐震、断熱、遮音、換気、防水、バリアフリーなど、暮らしの土台を見直します。

5.将来の修繕を考える

交換、点検、変更がしやすく、記録を残せる計画にします。

デザインは、この五つをまとめるためにあります。

形を格好よく見せるだけではなく、建物と生活の問題を整理し、一つの空間として成立させることが、設計の役割です。


▽「新しく見える家」から「長く暮らせる家」へ


日本では、既存住宅の活用が長年の課題となっています。

国土交通省によると、2018年時点で、全住宅流通量に占める既存住宅の流通シェアは約14.5%でした。既存住宅とリフォーム市場を活性化し、住宅を適切に維持しながら流通させることが政策課題とされています。

また、総務省の2023年住宅・土地統計調査では、全国の空き家数は約900万戸となっています。建物が余る一方で、新しい住宅が造られ続けるという、少々ちぐはぐな状況です。

これから必要になるのは、古い建物を一律に壊すことでも、表面だけを新しくして売ることでもありません。

建物の状態を適切に評価し、必要な性能を加え、現代の生活に合う形へ更新することです。

本当のリノベーションとは、新築のように見せることではありません。

新築とは異なる、既存建物だからこそ生まれる価値を見つけることです。


▽リノベーションは、答えを押しつける仕事ではない


雑誌やSNSには、魅力的なリノベーション事例が数多く掲載されています。

参考にはなりますが、同じ間取り、同じ材料、同じ暮らし方が、すべての人に合うわけではありません。

家族構成仕事趣味身体の状態所有している物生活時間建物の状態地域の気候予算将来の計画

条件は一軒ごとに異なります。

設計者や施工者が、流行の答えを当てはめるのではなく、住む人と一緒に考える必要があります。

何に困っているのか何を大切にしたいのか何は変えたくないのかどこまで工事をするのか何を将来へ残すのか

話し合いを重ねながら、その建物と生活に合った答えを探します。

リノベーションは、完成した商品を買うことではありません。

これからの暮らしを考え、選び、つくっていく過程そのものです。


▽まとめ


本当のリノベーションは、単に古い家を新しく見せる工事ではありません。

建物を調べる暮らしを見直す残すものと変えるものを選ぶ不足する性能を補う将来の変化や修繕に備える

これらを総合して、建物と生活の関係を再設計することです。

美しい空間をつくることも重要です。

しかし、その美しさが、使いやすさ、安全性、快適性、維持管理と結びついていなければ、長く暮らせる住まいにはなりません。

何を新しくするかではなく、なぜ変えるのか。

どこまで壊すかではなく、何を残すのか。

完成した時にどう見えるかだけでなく、その先でどのように暮らし続けるのか。

そこまで考えることが、私たちの考える「本当のリノベーション」です。

次回は、

「間取りより先に考えたい『どう暮らしたいか』」

をテーマに、生活観から考えるリノベーションについて掘り下げます。


参考資料

  • 国土交通省「既存住宅・リフォーム市場の活性化に向けた取組み」参照日:2026年7月26日

  • 国土交通省「住宅履歴情報とは」参照日:2026年7月26日

  • 国土交通省「部分断熱改修に向けた取組」参照日:2026年7月26日

  • 国土交通省「みらいエコ住宅2026事業について」参照日:2026年7月26日

  • 総務省統計局「令和5年住宅・土地統計調査」参照日:2026年7月26日

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